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【ベーカー&マッケンジー 井上朗弁護士が徹底解説】トランプ政権は日本企業のガバナンスにどう襲い掛かるか

日本製鉄のUSスチール買収の行方

──現在、日本製鉄によるUSスチール買収計画をめぐって米政府の対米外国投資委員会(CFIUS)が安全保障の観点から審査しており、12月中に審査期限を迎えるが、バイデン政権下で何らかの結論が出ると見ますか。

日鉄案件については、バイデン政権は買収を承認したいと考えていると思われます。それに対し、トランプ次期政権は反対の立場です(12月2日にトランプ氏は、「取引を阻止する。買収者は注意せよ!!!」とSNSに投稿した)。政権移行はもう始まっていますが、実務レベルでも、次期大統領の意向と民意を踏まえ、それに反する判断はしないようにと、共和党側は釘を刺しています。

バイデン政権としては、選択肢は2つです。1つは任期中に駆け込みで承認してしまうという方向。もう1つは、トランプ次期政権が反対の意向を明確にし、引き継ぎに際してその旨を伝えてきている以上は、自分たちでは判断できないとして、先送りにする可能性です。私もですが、米財務省のOBとか、この分野の経験者の見立ては、後者の先送りです。

次期政権の意向を無視して買収承認を強行すると、次の中間選挙で最大の批判の的のひとつになります。「民意を無視して米国企業を外国に売り渡すのはまさに左派のバイデン政権ならではの所業だ」と。「そんな売国奴の民主党に議会の舵取りを任せるのか」と、共和党は有権者に問いかけるでしょう。

ただし、USスチールで働く全米鉄鋼労組(USW)の組合員は、日鉄への身売りにほぼ全員賛成しています。USスチールは経営に失敗して設備投資資金もない。設備を新しくできないと非常に高コストで競争力のない、品質の悪い製品しかつくれず、ゆくゆくは潰れてしまうということで、従業員は、実は日鉄に買収してもらって資金を入れてほしいと考えているのです。

井上朗弁護士(撮影=矢澤潤)

──判断先送りになった場合、トランプ次期政権下でのスケジュールは。

現在のCFIUSの審査期限は12月中ですが、再び延長されると、新たな期限は90日後の来年3月になります。そこでさらに先延ばしすることも可能です。来年3月とか6月とかの時点で、大統領の中止命令が出る可能性があります。

デービッド・マッコール会長はじめUSWの執行部が完全に買収賛成に回って、トランプ氏としても米国民、労働者を守るという公約とバッティングしない状況が生まれれば買収承認となるでしょうが、そうでない限りは、早ければ来年3月に中止命令が出るでしょう。日本側としては、USW幹部をどれだけ説得できるかにかかっています。

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