【国広正弁護士#2】不祥事企業の信頼回復を妨げる「臆病トップ」と“名ばかり第三者委”の阿吽の呼吸
日本企業の不祥事・不正が後を絶たない。それどころか、同じ企業が何度も問題を繰り返すケースすら相次ぐ。そんなモラルハザードの核心には何があるのか――を探るシリーズ第2弾の#2では「第三者委員会」のパイオニア、國廣正弁護士が、不祥事企業の信頼回復を損なう「名ばかり第三者委」「不良第三者委」ビジネスの実態を指弾する。敵は、不祥事の真相究明に真摯に向き合わない経営陣の意志薄弱にこそある――。
“問題経営トップ”を守る「名ばかり第三者委員会」ビジネスの横行
#1記事で触れた第三者委員会については、ここ20数年の間で、日本では企業は不祥事が起きると第三者委を設置してきちんと説明責任を果たさなければならないという考え方が定着してきたと思います。「第三者委員会」と呼ぶか、「特別調査委員会」と呼ぶかはともかくとして、つまり“外部調査委員会”を設置すること自体は定着しました。
ただ、そうは言っても外科手術は痛い。しかし、企業としては不祥事を引き起こしたら、第三者委員会を事実上設置しなければならない状況になっている。そうしたジレンマの中で、本来の第三者委が機能を果たして、しっかりと外科手術をし、悪い部分を究明して対外公表するというのが本来の姿ながら、現実にはそうならないケースが増えているのです。第三者委を設置したものの、「悪いのは現場でした。トップの私は知らなかっただけで、悪くはありません」という経営陣をディフェンスする第三者委であってほしいと願う経営者たちが、残念ながら、一定数いるのも事実です。それに応じて深く原因を追究しない第三者委も現れるようになりました。
お互い“阿吽の呼吸”で幕引きを図り、本来の第三者委員会の機能を必ずしも果たしていない「名ばかり第三者委員会」「不良第三者委員会」がかなりの数見られるようになってきたという病理現象があります。本来、第三者委というのは企業が自浄作用を徹底的に果たすための制度であるのに、不祥事を起こした企業は第三者委を立てなきゃいけないという社会になったために、名ばかり第三者委員会、不良第三者委員会が横行するようになりました。
そんな名ばかり第三者委員会の調査では、企業側にとって心地が良い調査結果が出ることになります。あまり痛いことは調べられないし、調査報告書にも書かれない。一方、第三者委を引き受けるのは主として弁護士が多いのですが、弁護士側にとってはビジネスにもなるわけです。本来、第三者委というのはかなりの手間がかかる業務ですが、法律事務所がたくさんの弁護士を使って本質に迫らない調査を行い、費用を取るという“第三者委員会ビジネス”というものが病理現象として起こってきているという由々しき問題がある。
もちろん、第三者委員会すべてがビジネスになっていて、いい加減かと言うと、そうではありません。しかし外から見ると、名ばかり第三者委員会なのか、本当に本質に踏み込んだ第三者委員会なのか、その実、わかりにくい。これには、報じる側のマスコミの責任もあります。不祥事企業で第三者委が出来たらそれで良しとし、かつ、いい加減な内容の第三者委の報告書が出ても、調査結果そのままに報道して終わりとする傾向が根強くあるのです。
日本の企業不祥事における第三者委の本来的な業務を初期段階からやってきた私のような立場からすると、これはとてもよろしくない現象です。この状態を放置すれば、第三者委は「結局、いい加減なんだ」と世間に思われてしまいます。まさに、悪貨が良貨を駆逐する。結果、この制度自体が廃れていくでしょう。そうなれば、不祥事に対して本質的に原因究明を行う手段がなくなってしまうわけです。
“不良委員会”撲滅を目指す「第三者委員会報告書格付け委員会」
そうなると、ステークホルダーが不祥事を起こした企業の実態を知り、かつその結果として企業が自浄作用を果たすという手段がなくなってしまいます。結果、日本の資本主義社会自体が腐る。だから、第三者委員会を正しく育てないといけないという考え方が生まれてきました。第三者委がビジネスになってしまったから、第三者委なんか廃止してしまえとなると、喜ぶのは、不祥事を誤魔化したいと考える企業の経営者にほかなりません。そうならないために第三者委はあるべき姿にしなければいけないのです。
1つ目は、日本弁護士連合会(日弁連)が2010年にガイドラインを作り、「第三者委員会」を名乗るにはこの要件を満たしなさいという基準を設けました。
【企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン】
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2010/100715_2.html
2つ目は、ガイドラインを作って良くなった面もあるものの、それでも名ばかり第三者委員会がなくならない現状を踏まえて、久保利英明弁護士や八田進二・青山学院大学名誉教授、野村修也・中央大学法科大学院教授などとともに、私も参加して「第三者委員会報告書格付け委員会」を立ち上げました。
【第三者委員会報告書格付け委員会】
http://www.rating-tpcr.net/
格付け委は、各委員がA~Fの評価を付けて名ばかり第三者委員会に対して牽制機能を果たすことが使命です。委員は完全なボランティアですが、第三者委報告書をしっかり読み込んで委員会で議論を重ね、最後は委員一人ひとりが個別に評価を行います。報告書を査読するには膨大なエネルギーがかかりますから、社会的に注目された不祥事案、独自性の高い事案を年に3~4件選んで評価をすることになります。数は限られていますが、一定の牽制効果は大きいと思います。報告書が格付けされるということは、第三者委のメンバーに委員になった以上、しっかりと調査しなければならないという心理が働き、結果、名ばかり第三者委を少しでも減らす効果が期待できると考えています。
言うまでもなく、第三者委員会報告書格付け委員会が“一番偉い”などとは思っていませんから、評価に対する意見や批判はホームページで随時受け付けています。実際に、われわれの評価に対して意見や批判はありました。その中には、「(格付け委の)弁護士が(第三者委の)弁護士のビジネスを邪魔している」「弁護士が他の弁護士の仕事を取ろうとしている」(格付け委の委員9人のうち5人は弁護士)といった見当違いの内容もありました。しかし、不祥事を起こした企業の経営者が、私を含む格付けをしている弁護士に第三者委の委員就任を依頼するのは、心理的に相当ハードルが高いはずです。なぜなら、格付け委委員は他の第三者委報告書を手弁当でレビューしている以上、いい加減な調査は出来ない。言い換えれば、徹底的に調査され厳しく追究されるわけですから、むしろ格付け委のメンバーを第三者委に招聘するのは忌避されるものなのです。
第三者委報告書を陳腐化させる「委員の能力」と「会社側のスコープ設定」
名ばかり第三者委員会の報告書を読んで感じるのは、「誤魔化そう」「矮小化しよう」という強い意図で経営層や第三者委委員が動いているというよりは、“本質”を理解していないという印象があります。第三者委のメンバーの“能力”の問題が大きく作用しているのではないか、つまり、企業不祥事の本質に踏み込む力が不足しているのではないか。評価の低い報告書にはパターンがあって、「コンプライアンス意識が低い」「教育研修を行うべき」「内部通報システムを構築すべき」というように紋切り型の、通り一遍な内容であることが多く、その会社の不祥事がなぜ起きたのかということ、その会社特有の企業風土やコーポレートガバナンスの問題には踏み込めていないという印象が強い。
問題は第三者委員会委員の素養だけではありません。企業側が設定する「調査スコープ」にも問題がある場合が多いのです。そもそも、依頼主である企業側は、第三者委に対し「これだけ調べてください」という形で調査スコープを限定する。限定されると、第三者委は企業側が設定した範囲内でしか調査しないし、出来ないわけです。ですから、調査スコープについては第三者委が主体的に決めるほうが良いと思っています。なぜなら、不祥事というのは企業体質の問題、企業のガバナンス不全から発生することが多いからです。企業の土壌が悪いから不祥事という“モグラ”が出てきたわけで、モグラ叩きをするというよりは、土壌そのものを調べ上げないといけないわけです。モグラだけ見ているといった体の報告書は、もちろん調べる側の能力の問題もありますが、調査スコープを設定する企業側の要素、場合によっては意図も関連していると言えるでしょう。
次回最終回の#3記事では、第三者委員会調査の実務と、あるべき第三者委がいかに不祥事企業を蘇生させ得るかにについて、指摘したいと思います。
【シリーズ記事】
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