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【子会社ガバナンス#4】加登豊名古屋商科大学教授が語る「子会社業績向上の秘策」

似通う子会社の「品質不正」問題の原因は?

特に最近、私が子会社の問題として注目したひとつに、品質管理の不正問題があります。

製品なり部材なりが社内で定めた品質レベルに達しなかった時にデータを改竄する。または納期を優先するあまりに、資格のない社員がチェックする。品質管理不正は、大企業で次々と発覚しましたが、実はその多くが、子会社で行われていたものです。

第三者委員会の報告書を多く読むと、別々の子会社、別々の関連会社で行われた不正の手口が大変似通っていることが分かります。親会社の具体的な指示があったとは思えませんが、似ているのです。

例えば日本の巨大な自動車産業では、メーカーが1次下請けの協力会をつくり、1次下請けは2次下請けを集めて協力会をつくっています。協力会を通じて良い情報も悪い情報も伝播しますが、悪い情報が伝播した時に、どの企業、どの子会社でも似たような不正が行われると考えることができるのです。

親会社の預かり知らぬところで不正が行われていたとすれば、親会社のガバナンスが機能していなかったわけです。しかしそれよりも、親会社、子会社、関連会社が密接につながっているという面があるでしょう。

品質管理の不正問題では、おそらく不正を働いた社員の罪悪感はそんなに強くはないでしょう。日本の企業はきわめて高い品質を追求して、合格点が90点でも100点を目指し、その姿勢が日本企業の成長の源泉となってきました。品質管理の問題では、95点を超えているけれど、納入先に約束した100点には達しなかった状況です。合格点の90点は超えており、品質に問題はないという認識のため、社員の罪悪感は強くないと思われるのです。

しかしこの企業における倫理感の問題は、「上司の指示」という問題とも関係します。

以前、企業のミドルクラスの人たちが集まった私のゼミで、他の人の回答が分からないように目を閉じてもらって質問したことがあります。「倫理的、または法令順守上、問題のあることを上司に指示された時、あなたは抵抗しますか?」。そう問い掛けたところ、挙手した人はわずか2割だけでした。大学生に同じ形で質問をした時は、挙手した学生が圧倒的に多かったのですが、それは、実際に企業で働いているか否かの違いでしょう。

上司の指示を「親会社の指示」に置き換えれば、日本の企業風土では、親会社の指示に子会社は抵抗しないという問題を浮き彫りにしています。

中堅社員を子会社で鍛えて経営人材に

冒頭で、日本の企業グループにおいて子会社の貢献度が低いと説明しましたが、そもそも、親会社は子会社に対して業績向上を求めて来たのでしょうか? 求めてきたとは言えませんし、その姿勢は、戦後80年にわたりほとんど変わっていないように思います。その最大の問題こそ、「天下り」人事にほかなりません。

日本企業においては、優秀であっても、本社の部長止まりで終わる人が多くいます。その人たちを処遇するために、子会社の社長や取締役に天下りさせるという慣習が生まれました。親会社には、天下りする社員が多く控えているため、任期は1期2年、長くても2期4年といったところでしょう。目的はあくまでも「処遇」であるため、親会社での役職に応じた子会社でのポストが用意され、いわばトコロテン式に天下りが行われます。

この仕組みでは、天下りした社員が子会社で頑張って業績を上げると、不都合なことが起こります。子会社で余人をもって代えがたい人物になってしまうと、短期間での退任が難しくなる。その結果、次に控えている人の行き先がなくなり、親会社の人事に齟齬を来してしまいます。

結局、天下りした社員は、子会社の現状を維持してくれるだけでいいのです。

親会社が子会社の成長を求めないこの仕組みは歪です。高度経済成長の下で、親会社に余裕があれば、それでも良かったのかもしれませんが、それは制度疲労として蓄積されてきたと言えるでしょう。制度疲労の蓄積は臨界点を超えれば、何らかの問題が噴出するものです。バブル経済崩壊後の“失われた30年”の中で、すでに臨界点を超えてしまったのかもしれません。しかし現在は、子会社の成長なくして企業グループ全体の成長はないと言える状況です。

私は、親会社で“終わった人”を天下りさせるのではなく、意欲のある、中堅社員を子会社に送り込むべきだと考えています。

日本の企業では、部長や執行役員からそのまま取締役に昇格するケースが多い。しかし、部長や執行役員が各事業の執行を担うのに対し、取締役はそうした業務執行を束ね、会社全体の舵取りを担う存在です。つまり、求められる能力が異なるのです。

部長を務めた後、子会社の社長を経験し、業績を上げて資質に適った人を取締役に登用することは、経営者を選ぶプロセスとして優れています。そして子会社、ひいてはグループ全体の業績向上にもつながります。このプロセスを踏んでいる企業は、私が知っている例ではエネルギー系企業など数社ありますが、まだまだ少数派でしょう。

意欲のある中堅社員を子会社や関連会社に天下りさせる企業が増えれば、日本の企業の子会社のあり様は変わり、本来の目的である連結業績への貢献ができるようになるのです。(談)

加登豊教授
プロフィール
加登 豊:名古屋商科大学大学院教授 (#3から続く)…
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