北条早雲「若い人や老人には地位ではなくカネを与えよ」の巻【こんなとこにもガバナンス!#11】

栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)
「若い人や老人には地位ではなくカネを与えよ」
北条早雲(ほうじょう・そううん、室町・戦国時代の武将)
1432~1519年。駿河(静岡県)の今川氏の食客となり、1491年堀越公方の足利茶々丸を攻めて伊豆を制圧する。95年大森藤頼の小田原城を攻略、1516年相模(神奈川県)を平定し、北条氏の関東制覇の基礎を確立した。本姓は伊勢、名は長氏、通称は新九郎。早雲は法名の早雲庵宗瑞による。なお、早雲自身は一度も北条を名乗ったことがない。
松下幸之助も実践した知将の言葉
北条早雲は浪人の身から大名に駆け上り、下剋上の戦国時代を象徴する人物である。北条氏五代100年の祖であり、知将で知られる。多くの語録も残している。
冒頭の言葉のもとの文章は「二十以前七十以後は大小ともに、わが蓄えおく金銀をもって切符に当つべし。老若ともに粗忽に知行を与え、あるいは隠居、あるいは死亡せし後の知行をその子に与えずして取り上ぐれば、何にとよきように言いても心中には恨みあり」。ざっくりまとめると、評価が定まらない若者や老い先短い者には地位ではなくカネをやれ――ということだ。
地位は一度上げてしまうと、取り上げることはなかなかできない。「立場が人を育てる」ともいうが、昇格させて、ダメならば降格を繰り返していると、全体の士気にもかかわってくる。だから、褒美を与える際にはカネか、地位かをしっかり考えろと早雲は説く。これを実践した名経営者こそ、パナソニックの祖、松下幸之助だ。松下も実績を残したからといって、地位をやるには「慎重になれ」と語っている。
「地位」と「おカネ」の難しいバランス
ただ、地位を与えずにカネだけを与えていればいいかというと、そういうわけでもない。そこが難しい。手柄を立てても地位を与えなければ、やる気を失いかねないからだ。最悪なのは、身内など特定の人だけを昇格させることだろう。
早雲の生きた時代と現代は違うので、早雲のルールが現代に当てはまるかは検討が必要だが、褒美を「地位にするかカネにするか」を区別していたことは、現代のコーポレートガバナンスでも参考になる。どのように区別するかの線引きが組織、特に会社には必要だ。
(月・水・金連載、#12に続く)
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