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第11回【久保利英明×八田進二#3】この国のガバナンスは大丈夫か!?

八田進二・青山学院大学名誉教授が各界の注目人物と「ガバナンス」をテーマに縦横無尽に語り合う大型対談企画。シリーズ第11回目のゲストは、かの久保利英明弁護士。最終回の#3では、易きに流れる上場企業の機関設計問題、弁護士のビジネスに堕しつつある第三者委員会の問題点、そして、この国のガバナンスの在り様へと広がっていく――。

監査等委員会設置会社では「不祥事を防げない」

八田進二 #2から続く今、こうしてガバナンスをめぐるお話を伺っているわけですが、日本でもガバナンスの問題が周知されるきっかけとなったのは、2015年の「コーポレートガバナンス・コード」の制定です。この流れを作った一人が久保利先生ですよね?

久保利英明 それには前段階があって、2012年に法務省の法制審議会会社法制部会で「会社法制の見直しに関する要綱案」をまとめました。その中で社外取締役の選任の義務付けを盛り込みましたが、経団連の強い反対を受けて実現できなかった。法律として盛り込めないのであれば、ソフトローで盛り込めばいいと提案したのです。あとは「コンプライ・オア・エクスプレイン」(遵守せよ、さもなくば、説明せよ)でやればいいと。心ある企業が取り入れれば、その他がついてくるという発想です。日本お得意の社会における同調圧力の利用です。実際、ソニーをはじめ、一部の大手企業は指名委員会等設置会社に移行していきました。

八田 しかし、指名委員会等設置会社は現時点でも100社に満たないという状況です。現在、日本の上場企業には指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、そして従来通りの監査役会設置会社の3つの機関設計があります。私は、法制度は“シンプル・イズ・ベスト”だと思っていて、ひとつの仕組みだけを作って、後の運用と活用は企業各社に任せる方法がいいのではないかという立場です。

にもかかわらず、2015年5月の改正会社法で指名委設置と監査役会設置の折衷案というべき監査等委員会設置会社が新設された。指名・報酬委員会を必置にしなくてもいいという与し易さもあって、今では上場企業の3分の1強が監査等委員会設置会社に移行しました。こういった流れはどう評価をされますか。

久保利 多数が採用しているから良い制度だと勘違いしている企業が多いですよね。まず指名委員会等設置会社で言えば、当初、1名以上、つまり2名の社外取締役がやりたいことをやったら、ガバナンスが壊れるということで、企業側はみんな、反対したわけです。ところが、今は社外取締役が1/3以上いたり、過半数の会社も増えてきました。仮に2名の社外取締役が掻き回そうにも、そんなことはできない。だから、指名委員会等設置会社に移行する企業もあるわけです。

一方の監査等委員会設置会社で言うと、コーポレートガバナンス・コードで定められた社外取締役を確保するためには社外監査役を取締役にしないと達成できないという言い分でした。ただ、極端に言うと、そんな主張をしていた企業は規模からしても、上場している必要性がないような企業が多かった。本当に立派な会社で監査等委員会設置を採用している企業は、数える程しかないんじゃないかと思いますよ。

久保利英明弁護士

八田  昨今、不祥事が顕在化した上場企業の比率で言えば、監査等委員会設置会社が多いのではないかと思っていますが、それは、十分な抑止・監視が働いていないからでははないかとの疑念も生じているところです。

久保利 確かにそう言われますよね。そもそも、監視するモチベーションがない制度。そういう意味では、監査等委員会設置会社はやめていいのではないか。それでも監査等委員会設置でやっていきたいと本気で思うなら、監査役会設置会社のように評決権はないけれど差し止め権などを付与して監査役会に権限をしっかり与えるという制度の方がいい。結局、監査役をなくすかどうかが論点だと思いますが、私は今の監査役会をきちんと充実させるなら、これはこれでいいと思っていますよ。

第三者委員会は“弁護士のビジネス”に

八田 企業・組織不祥事で言うと、日本では第三者委員会の設置がかなり浸透してきました。自浄能力として自ら第三者委を立ち上げて、原因を究明して再発防止策を講じるという流れです。これに対して、久保利先生が中心になって2014年に第三者委員会等が提出した報告書をチェックする「第三者委員会報告書格付け委員会」を作られた。格付け委には私も委員として参加させていただいていますが、その経緯をお話しいただけますか。

久保利 第三者委員会のコアメンバーは弁護士が多いのですが、当初は良い報告書も結構ありました。しかし、第三者委が一般化するにつれて、ほとんど見るべき報告書がなくなってきた。このことに危機感を覚え、2010年に私が座長となって日弁連(日本弁護士連合会)がワーキンググループ(WG)を立ち上げ、「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」を策定したのです。

でも、実際はあまり改善されなかった。だから、今度は日弁連のWGのメンバーを中心に、報告書の格付け委員会を作りました。自浄能力を発揮するというのは言うのは簡単ですが、全ての組織ができるわけではない。一方で本気でやろうという企業も出てくるはずだから、3年ぐらい我々で“格付け”をして、「これは駄目だ」「あれは良い」と示せば、良い方向にいく企業が増えると思っていたのですが……。

八田 いまだに中身の乏しい第三者委員会報告書は後を絶ちませんね。

八田進二教授

久保利 残念ながら、第三者委員会は結局、弁護士のビジネスになってしまった。不祥事を起こした企業から多額の報酬をもらって長文の報告書を書くと、ハッピーだと考える弁護士もたくさん出てきました。だから、報告書の中身は決まり文句ばかりです。そういう第三者委員会は原因は何かと問われれば、「企業風土」であるとか、「長年の経営の劣化」であるとか、あるいは、「再発防止策は研修」だと……。紋切り型でケースに即した提言はないのです。原因論と再発防止策を読めば、その第三者委員会が立派なのか、ダメなのかがすぐ分かりますよ。

八田 第三者委員会がビジネスとして成り立っているのは、それを良しとする依頼者側の思惑もあるでしょう。「第三者委員会にお願いしました」と言えば、マスコミも一度、報道を鎮静化させてしまう。そして、時間が経って出てきた第三者委報告書に対して頭を下げて、「再発防止策に従って頑張ります」と。それで追及の手から逃れられるわけです。つまり、弁護士と企業、双方にとってウィンウィンの関係が潜在的にあるのではないでしょうか。

久保利 そういう構図があるからこそ、弁護士も「お前ばかり儲けて」と言われた時に、「いや、依頼者(不祥事企業)も喜んでいます」と言い訳するのです。けれど、本来、依頼者というのは、不祥事企業の執行部ではなくて、オールステークホルダーを指すはず。彼らが本当に納得しているかどうか。その判断基準は、上場企業の場合だと、マーケットになりますよね。マーケットに良い報告書だと評価されれば、いったん低落した株価は戻るのです。

2014年、私が第三者委員会の委員長を務めた「すき家」のゼンショーホールディングスのケースでは、「ワンオペなんてやめてしまえ」と、労働環境改善のために本部の管理体制を変更すべきと提言したら、我々が報告書を出す前に、会社側が自分たちでアイディアを出してどんどん改善策を講じていった。そして、株価は大きく跳ね上がりましたよ。

八田 やはり、CEO(最高経営責任者)の本気度次第ですよね。

「一票の格差訴訟」と「司法改革」 八田 200…
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