海外の公益通報者保護制度:米・英・EUの現状【公益通報者保護法20年「ニッポンの内部通報」を振り返る#5】

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前回述べた通り、公益通報者保護法は、2004年に制定され、06年に施行されました。その後、20年に1度目の改正があり、昨年25年に2度目の改正がなされました。

公益通報者保護法によって、通報者の保護要件を明確化したことなどにより予見可能性が向上し、20年の改正後では、労働者や派遣労働者以外に、退職者(退職して1年以内の者)や法人の役員も、公益通報者保護法上の保護対象としました。また、事業者に対して法令遵守体制(内部通報制度)の構築・適切な運用に向けた基盤整備も加速していきました。

今年26年12月に施行される改正公益通報者保護法では、公益通報を知って解雇や懲戒をした者に対して、刑事罰規定を新設したり(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、法人に対する法定刑を3000万円以下の罰金、両罰)、通報後1年以内の解雇や懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定する規定を新設する(民事訴訟上の立証責任転換)など、抜本的な改正が行われました。

では、公益通報者保護に関する海外の立法状況はどのような状況にあるのでしょうか。

告発者への「報奨金」も用意するアメリカの内部通報事情

例えば、アメリカでは、内部告発者保護に関して、民間事業者と公的機関と対象を区分して、それぞれの個別法によって規律しています。

公的機関では「内部告発者保護法(Whistleblower Protection Act of 1989)」によって通報者を保護しています。2012 年には、「内部告発者保護強化法 (Whistleblower Protection Enhancement Act of 2012)」の制定により内部告発者の保護内容の拡充が図られています。

一方、民間事業者では「企業改革法 (Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002)」や、航空安全の強化等を図る目的で制定された「21世紀に向けた航空投資・改革法(Aviation Investment and Reform Act for the 21st Century 2000)」などの個別法によって通報者・告発者が保護されています。

相次いだ企業犯罪で内部告発者保護が進展(写真はニューヨーク証券取引所)

企業改革法は、通称サーベンス・オクスリー法(Sarbanes-Oxley Act of 2002)とも呼ばれ、日本ではSOX法として知られています。この法律は、総合エネルギー企業のエンロンや大手通信会社のワールドコムなどの企業会計不正事件に対処するため、02年に制定された連邦法です。

SOX法は、内部告発者が告発したことを理由にして、他の従業員と「差別」を禁止することを通じて、金融・証券業界の健全性や透明性を確保するという、公益的価値を重視しているものと考えられます。つまり、正当性のある内部告発を、組織自身が内部の自浄作用に活用し、健全な組織に向かわせることに意義があり、内部告発の内容を真摯に受け止め、不正・違法行為を是正したかどうかが問われているといえます(Trevor Murray v. UBS Securities, LLC, 601 U.S. 23(2024)を参照)。

また、10年に「ドッド=フランク・ ウォール街改革・消費者保護法(Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」が制定されました。この法律は、リーマンショック(08年)をはじめとする国際金融危機の再発防止を目的として制定されていますが、同法は、公開・非公開問わずすべての会社に適用され、保護対象者も幅広く対象としています。SEC(米国証券取引委員会)の所管法令に関する違反行為について、SECに告発したことなどを理由にして不利益取扱いを禁じています。

また、特筆すべき点は、告発者がSECに提供した違反行為に係る情報に基づいて調査等を行った結果、SECが一定額の制裁金を取得した場合は、SECによる投資家保護基金(Securities and Exchange Commission Investor Protection Fund)を通じて、告発者に対して制裁金の一部(10~30%)の報償金(Awards)を支払う旨が規定されている点です。

なお、司法省は24年より、「内部告発者への報奨金パイロットプログラム(Whistleblower Awards Pilot Program)」をスタートさせており(3年間の時限的プログラム)、企業犯罪をはじめとする違法行為の告発によって司法省が制裁金を取得した場合、内部告発者に対して報奨金の受領を認めています。今後も、金融・証券分野や企業犯罪分野以外の他分野における告発についても報奨金制度の導入等が進む可能性があるといえますが、報奨金獲得を目的とした「告発・通報のプロ」が生まれるリスクも考慮しながら、報奨金制度における実務運用の推移を見守る必要があると思われます。

このようにアメリカの内部告発者保護に関する法制度は、上記の連邦法の他にも、各州法において規律されています。それぞれ保護要件が異なっており、日本の公益通報者保護法のような包括的な法制度がありません。こうした個別法による保護が及ばない場合には、英米法特有のコモン・ローに基づいて、内部告発者を保護してきた経緯があります。

日本の公益通報者保護法のモデルにもなったイギリスの保護法

一方、アメリカと同じくコモン・ローの伝統を持つイギリスは様相を異にしています。民間事業者と公的機関を問わず適用される包括的な保護法を置いているのです。

日本の公益通報者保護法も参考にした「公益情報開示法(The Public Interest Disclosure Act 1998)」がそれです。民間事業者の労働者や公務員など、すべての労働者(worker)に適用される包括的な公益通報者の保護法で、1999年に施行されています(本シリーズ#2参照)。

日本の公益通報者保護法と同様、外部通報よりも内部通報の保護要件を緩和する規定があり、事業者に対して内部通報制度を整備するインセンティブを与え、事業者の自浄作用に期待し、労働者が「メッセンジャー」として公益に関わる情報を「開示」(disclosure)することを法的に許容しているのです。

ロンドン証券取引所などが集積するシティ

ただ、公益情報開示法施行後も、例えば、Mid Staffs Hospitalや Gosport Hospitalで発生した病院内での医療事故、内部資料「ルクセンブルク・リークス」が暴いた有名企業の脱税(2014年)、独フォルクスワーゲンによる排ガス規制不正(15年)など、数多くの企業・組織不祥事やスキャンダルが公益通報により発覚しました。

こうした経緯から、公益情報開示法施行後14年が経過した13年には「企業規制改革法(Enterprise and Regulatory Reform Act 2013)」によって、また、15年には「小規模事業雇用法(Small Business, Enterprise and Employment Act 2015)」によって、公益情報開示法の内容が一部改正されました。

当時、こうした法改正は、いわばパッチワーク的であると批判されていましたが、通報者に対して他の労働者が、通報を行ったことを理由にしてハラスメントやいじめ・嫌がらせ等の損害を与える行為についても禁止していたり、通報の濫用を防止するため、保護要件であった「誠実性」(good faith)の要件を廃止し「公益性」(public interest)の要件を新たに導入するなど、抜本的な改正がなされました。

EU「公益通報者保護指令」の制定

ヨーロッパ大陸に目を転じると、EU(欧州連合)では、「公益通報者保護に関する指令(DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the protection of persons reporting on breaches of Union law)」を制定、2019年12月に施行されました。

ベルギー・ブリュッセルのEU本部

本指令は、EU法違反を報告する、行政機関および民間企業に属する公益通報者を保護することを目的としており、脱税、マネーロンダリング(資金洗浄)、プライバシー・個人情報保護などが保護対象となります。また、通報者の対象についても、労働者のみならず、研修生、ボランティア、自営業者を含めており、通報者の対象を拡大することにより EU 法の遵守や公益保護を目指しています。

また、このEU 指令は、50人以上の従業員を擁する企業および1万人以上の市民を持つ行政機関に対して、公益通報者を保護し、内部通報窓口や通報処理を整備し、通報先に対し、3カ月以内に公益通報者へのフォローアップを義務づけるなど、フィードバックに関する規定を明確化するための措置を講じるよう義務づけています。

公益通報者にとっては、多様な通報チャネル(reporting channels)として、内部通報のほか、管轄国当局または管轄のEU機関等への外部通報が選択可能となっています。さらに、公益通報者は、例えば、所属する企業や管轄国当局への通報に対して適切な措置を取らなかった場合や、公益に対する切迫または明白な脅威がある場合には、公衆およびメディアに対する開示(public disclosure)をしても免責されることとなっています。

一方、公益通報者やその同僚、家族等の支援者に関しては、あらゆる形態の報復(解雇や降格はもちろん脅迫なども含む)に対する法的保護を受けることができる。こうした法的保護のみならず、財政的支援、心理的なカウンセリング支援も受けることが可能となっています。

さらに、こうしたEU指令は、通報内容がジャーナリストにとって重要な取材源となっており、取材源の秘匿を前提として、これを通報する公益通報者を保護することは、メディアにおける取材の自由にもつながるとの意識も強いようです。

EU指令に基づきつつ、フランスやドイツをはじめとしてEU各国において法整備が進んでいます。それぞれ特色はありますが、公益通報者の保護の拡充を図っています(最新のEU各国における法整備状況については、Whistleblowing International Networkのホームページに掲出されている調査資料等を参照)。

このように諸外国の公益通報者保護の立法状況を踏まえつつ、改正公益通報者保護法が成立しています。今後も、こうした海外の趨勢を踏まえながら、日本の公益通報者保護法の方向性を考えていくことも重要な視点といえます。

(#6につづく)

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