前回記事
今年2026年12月1日に施行が予定される「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(以下「改正法」)。2015年から約5年間、消費者庁で公益通報者保護制度の設計や運営に携わり、企業の内部通報実務に精通した中野真弁護士が、改正法の重要ポイント、改正法により想定される企業への影響について、4回に分けて解説する本シリーズ。#4の今回は、法定指針の改正による従事者指定義務および体制整備等義務の範囲を拡張について確認をしたうえで、主要なチェック項目について確認をしたい。
1 法定指針の改正により従事者指定義務および体制整備等義務の範囲を拡張
従事者指定義務(法11条1項)および体制整備等義務(法11条2項)の大要は、内閣総理大臣が定める、「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月 20 日内閣府告示第 118 号。以下「法定指針」)において定められている。
消費者庁は、2026年3月31日、改正後の法定指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号、令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号)を改正後の指針の解説とともに公表した。
改正後の法定指針では、改正前の法定指針に定められていた規制が縮減されることない一方で、概ね以下の内容の義務の拡張が行われている。
⑴ 独立性確保措置等の対象となる公益通報の範囲の拡張
現行の法定指針では、組織の長その他幹部からの独立性確保措置・利益相反排除措置・調査是正の実効性確保措置に係る規制(以下「独立性確保措置等」)については、内部公益通報窓口経由の公益通報に対するものに限定されていた(法定指針第4.1⑵から⑷)。
しかし、改正後の法定指針では、これらの措置について、内部公益通報窓口経由以外の公益通報(上司への報告、行政機関やマスコミへの通報等)にも拡張されることとなった(改正後の法定指針第4.1⑵から⑷)。
この解釈について、消費者庁は、マスコミ等により報じられた法令違反の発覚が公益通報を契機としているか否かが確認できない場合においても、当該公益通報の存在または可能性を認識した場合には、その時点で「通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合」に該当するかどうかを判断のうえ、独立性確保の措置を講ずることが求められるとしており*1、マスコミ等により自社の法令違反行為が明らかとなった場合には、幅広く独立性確保措置等が求められるといえる。
1 消費者庁参事官(公益通報・協働担当)「「公益通報者保護法第11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針の一部を改正する告示(案)」に関する御意見募集の結果について」(令和8年3月31日。以下「意見募集結果」)26~32頁参照。
⑵ 周知・啓発事項の明確化
現行の法定指針では、法および内部公益通報対応体制について、公益通報をなし得る者に周知することが必要とされている(法定指針第4.3⑴)。
改正後の法定指針では、当該周知に際しては、
・内部公益通報受付窓口の設置に関する事項並びに連絡先および連絡方法、
・組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容、
・公益通報対応業務の実施に関する措置の内容、
・公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置の内容 など
こういった形で個別具体的な事項について、周知・啓発を行うことが必要とされ、周知・啓発が必要な事項が明確にされた(改正後の法定指針第4.3⑶)。
⑶ その他
以上のほか、特定受託業務従事者および同従事者であった者への対応の追加、通報妨害防止措置の追加、従事者指定の方法の明確化、不利益な取扱いの具体例の列記等の改正が行われている。
2 改正法対応に向けた主要なチェック項目
事業者においては、改正法の施行日である26年12月1日に至るまでに間に、以下の事項について、①自社においてどのような対応を行うのかという実際の対応フローを検討したうえで(制度の設計)、②それを規程に落とし込んでいく(規程の改正)作業が必要である。
□ 特定受託業務従事者および同従事者であった者への対応(通報の受付後の対応、不利益な取扱い等の防止措置等)
□ 組織の長その他幹部からの独立性確保措置(内部通報窓口経由以外で発覚した場合の対応)
□ 利益相反の排除措置(内部通報窓口経由以外で発覚した場合の対応)
□ 調査および是正の実効性確保措置(内部通報窓口経由以外で発覚した場合の対応)
□ 通報妨害防止措置
□ 周知・啓発すべき事項(どのような内容を、どのような方法で周知・啓発していくか)
□ 従事者の指定方法の変更
3 終わりに
改正法の施行が26年12月に迫っているが、実際には、20年の法改正への対応もまだ道半ばであるという事業者も少なくないのではないかと思われる。今回の法改正では、20年の改正により設けられた義務に違反した場合のペナルティも強化されていることから、今回の法改正を契機に、20年の法改正にも対応できているか否かという観点から、自社の制度の抜本的な見直しを行っていただくことをお勧めしたい。
(シリーズ了)
