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【大手企業訴訟ウォッチ#2】積水化学vs.三菱電機 微に入り細を穿つ配管漏水訴訟

コーポレートガバナンスの“間欠泉”ともいえる企業訴訟をめぐる連載第2回目。5月も半ばを過ぎると、月の初めにゴールデンウイークがあったことなど忘れてしまうものだが、連載2回目の今回記事はその大型連休期間も取材対象期間内。ただ、祝祭日は当然、お役所である裁判所も休みになる。それでも裁判は粛々と進んでいるわけで、前回#1で取り上げた4月半ば以降から5月半ば頃までの企業間訴訟を中心に注目案件について取り上げよう。

クレディ・スイス、ヤマダHD、大和証券、ミツカンの訴訟

【原告】個人M【被告】クレディ・スイス証券【内容】地位確認【現状】弁論(尋問)

【原告】破産者ヤマダエコソリューション破産管財人【被告】ヤマダHD、ヤマダテクニカルサービス社長個人【内容】損害賠償【現状】弁論(尋問)

【原告】個人A【被告】大和証券【内容】仕組債売買に伴う発生損害金【現状】弁論

【原告】コロワイド【被告】ダイヤモンド社【内容】損害賠償等【現状】弁論(高裁)

・【原告】K商会【被告】幻冬舎メディアコンサルティング【内容】著作物製作費返還等・違約金反訴控訴【現状】弁論

・【原告】中埜大輔【被告】ミツカンHD、ミツカンJプラスHD【内容】損害賠償等【現状】弁論

M氏とクレディ・スイス証券の訴訟は「地位確認」なので、実力主義とされる外資系証券ではよく見られる訴訟だが、本人の意に染まぬ解雇などがあったものと思われる。ただ、クレディ・スイスそのものに今年2023年3月、経営危機が持ち上がり、結局、同じスイスのUBS証券に救済合併された。本体の存続自体が風前の灯火だったわけだが、本国から遠く離れた日本における本訴訟への影響はないのか、少し気になるところではある。

家電量販店のヤマダホールディングス(HD)を被告にした訴訟は、2020年9月から破産手続きに入っているヤマダエコソリューションの破産管財人が起こしているもの。社名からして子会社のようだが、実はヤマダエコ社は2017年4月にヤマダHDが持ち株を譲渡、グループから離脱していた。本訴訟の詳細は不明ながら、ヤマダエコ社をめぐっては、2021年に日本テレビの完全子会社から同社代表が損害賠償で提訴されるなどしている。果たして「ヤマダ」の冠を戴くかつての関連会社で何が起こっているのか。 

一方、大和証券と個人の裁判は「仕組債」に関するもの。証券会社が、中身が複雑で素人には理解し難いハイリスク商品である仕組債を多く売り捌いて利益を上げていたことについては、金融庁も問題視し、昨年2022年には調査が入った。すると、多くの金融機関で仕組債の販売は激減したものの、その時点ですでにかなりの量を販売した後だった。だから、このところ、証券会社を相手取った個人訴訟が目立っている。

「お酢」のミツカンを相手に中埜大輔氏が起こした訴訟は、「創業家トラブル」として有名になっている事件だ。訴えの中身は「父子引きはがし」という“極家庭的”な問題。ミツカン創業家の次女と結婚し“娘婿”となった大輔氏は子どもを授かったが、中埜一族から離婚を強要され、実子と引き離されたというものだ。ただ、この「父子引きはがし」については、義父母で昨年2022年8月に亡くなった中埜和英前会長とその妻を相手取った3000万円の損害賠償訴訟の判決が今年2月9日に下りていて、「強要はなかった」として大輔氏側の請求は棄却されている。今回の訴訟は、その「父子引きはがし」訴訟と並行して争われていたもので、こちらは法人のミツカンを訴えているものだ。本訴訟も最終段階で、近く結果が出る模様だ。

そして今回、個別で取り上げるのが、下記の訴訟である。

・【原告】積水化学工業【被告】三菱電機【内容】損害賠償控訴【現状】弁論終結(高裁)

一審は積水化学の“完全敗訴

訴訟の概要は、積水化学が製造した配管を用いた給湯のエコキュートシステムを三菱電機がカタログで推奨部材として販売したところ、2013年から2017年にかけて、戸建て10戸、集合物件150戸で漏水事故が発生。責任割合で負担する合意に基づいて、三菱電機は積水化学に約11億8000万円を支払えというものだ。

この案件は「事故」がそもそもの原因。となると、どうして事故が起こったかという原因究明が求められ、その原因に対し、双方がどう責任を負うかの問題となる。事故の原因とその責任の割合については、予め「合意書」に基づいて決定されていたはずだが、こと技術的な問題となると、細部の解釈や実際の事故環境をめぐって齟齬が生じることも多い。結局、技術者同士の応酬の末に折り合うことなく訴訟に至ったというのが、流れだろう。

事実、この裁判での論点は、積水化学が配管の仕様で謳う「最高許容温度95度」というのが「常用における最高温度」のことを指すのか否か、カタログで同配管推奨した三菱電機の「推奨責任」の有無などといった細部に及んでいる。もうこうなると、裁判所の判断を仰ぐしかない。

積水化学が訴訟を提起したのは2018年1月。東京地裁での審理は両社の歩み寄りがないまま結審し、昨年2022年11月に判決が下りている。判決は「原告の請求棄却」で、積水化学の完全敗訴。納得できない積水化学は控訴。高裁の審理は1回しか行われず、6月に判決が下る予定だ。裁判所は和解案を出しているようだが、経緯を見れば、積水化学にとっては厳しいものが予想される。

配管トラブルが被害額約12億円に膨れ上がった大手企業同士の“漏水訴訟”。企業訴訟の現在地を示していると言えよう。

#3に続く

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