前回記事
グローバルにビジネスを展開するうえで、海外の取引先や関与先の背景に潜むコンプライアンスリスクは、財務リスクと並んで、細心の注意を払うべき対象です。近年、各国当局はコンプライアンス上問題のある人物・法人の制裁リストをさらに拡充し、「二次制裁」も含めて違反者には厳罰で臨んでおり、日本企業も「知らなかった」では済まない時代となっています。
しかし、「財務面の与信チェックはまだしも、コンプライアンスチェックにまで手が回らない」「リスクは把握したいが、ビジネスのスピードも落したくない」といったジレンマを抱える企業も少なくありません。そこで、長年、企業の反社チェック等を支援してきた当社ディー・クエストのコンプライアンス調査部が、海外コンプライアンスチェックの第一歩である「KYCチェック」を中心に、その基礎から実務上のポイントまでを複数回にわたって解説する本シリーズ。
#1につづく今回では、信用調査における「支払い能力」と「取引適格性」の違いなど、KYCチェックの基本を押さえたうえで、エビデンス(証拠・証跡)に基づいたコンプライアンス調査の重要性を解説します。
KYCにおける実務アプローチ:まずは「データベース照合」から
前回#1のとおり、①経済制裁・ブラックリスト(SDNリスト等)、②行政処分・重大な法的リスクの履歴、③ネガティブニュース(報道情報)、④PEP該当――を一から手作業で調べるのは困難なため、まずは政府の公示情報や制裁リスト、主要報道メディアのネガティブ情報などを集約した「データベース」(照合ツール)を用い、一致する情報がないかを照合(スクリーニング)するのが基本的な手順となります。
日常的な取引開始時には、まず定型化されたデータベース照合を活用し、以下の2点を実務上の運用として組み込むのがスムーズです。
• 一次スクリーニングの実施: 企業名だけでなく代表者・主要役員名まで含めてデータベースで照合する
• 照合ログ(履歴)の保管: 照合日や確認結果(該当なし/懸念あり等)をそのまま記録として残しておく
このように、審査のファーストステップとして客観的なデータベース照合を組み込むことで、企業の法務・コンプライアンス部門は判断根拠を得られ、営業をはじめとする現業部門もスピーディにビジネスを進められる体制が整います。
データベース照合の「先」にある調査について
一次スクリーニングであるデータベース照合はあくまで「公知の重大リスク」を迅速に洗い出すための標準的な手続きです。海外M&A(合併・買収)や海外居住者の役員選出など、取引の規模や重要度が極めて高い場合や、一次スクリーニングで微弱な懸念(グレーゾーン)が浮上した場合に検討する「現地詳細調査(現地デューデリジェンス=DD)」の具体的内容やKYCとの違いについては、後日公開の記事で解説する予定です。
混同しがちな「信用調査」:「支払い能力」と「取引適格性」は別次元の評価軸
「信用調査」という言葉で一括りにされがちな「調査」ですが、実務上は「財務調査(与信チェック)」と「コンプライアンス調査」という目的の異なる2つの評価軸が存在します。
財務調査は、「約束通り代金を支払ってくれるか」という財務リスク・倒産リスク(支払能力)の評価です。一方、コンプライアンス調査は、「法律や社会規範に反する相手ではないか」という法的リスク・不祥事リスク(取引適格性)の評価になります。
| 比較項目 | ① 財務調査 ⇒支払能力の確認 | ② コンプライアンス調査 ⇒取引適格性の確認 |
| 目的 | 相手方に取引代金を支払う十分な資力があるかを確認する。 (支払遅延や貸し倒れリスクの回避) | 相手方が国際的な法的規制や制裁に抵触していないかを確認する。 (自社のペナルティ受給や取引停止リスクの回避) |
| 主な確認内容 | 財務諸表、売上高、純資産、資金繰り、信用格付けなど | 経済制裁リスト、マネーロンダリング関与、PEP、重大犯罪報道など |
「財務調査」だけ実施のリスク
財務調査で「業績良好・財務健全」と評価された企業であっても、KYCチェックのリスクが存在しないとは限りません。例えば、どれほど優れた資金力を持つ企業であっても、その企業の背景や実質的支配者(UBO)に国際的な経済制裁対象が関与している場合、取引を行うことで自社までもが規制当局からの処罰対象(第二次制裁など)となるリスクを負うことになります。これには、行政処分、口座凍結、社会的な信用失墜などが含まれます。
したがって海外取引においては、財務分析による与信管理だけでなく、前提条件としてこの「KYC」を通じたリスク検知を組み合わせることが実務上のリスク管理となります。
実務の現場で生じる「リスク検知」と「事業推進」のジレンマ
しかし、KYCを含むコンプライアンス調査の重要性が叫ばれる一方で、実務の現場では「コンプライアンス上の懸念」と「ビジネスの推進」のバランスをどう取るか、常に難しい判断が求められています。
特に法務・管理部門においては、企業の安全を守る観点から厳格なスクリーニングを行いたい一方で、明確な「黒」(法的アウト)とは言い切れない曖昧な情報(過去の微弱な報道や関連性の不透明なデータなど)が出た際に、一律で取引不可と判断することは容易ではありません。現場の取引意欲との間で調整に頭を悩ませるケースも少なくないのが現実です。

このような「一刀両断できないグレーゾーン」に直面した際、求められるのは単なるYES/NOの自動判定ではありません。
「該当した情報にはどのような背景や裏付けがあるのか」「現在も継続しているリスクなのか」といった客観的な事実(ファクト)を多角的に整理・特定することが、社内で納得感のある検討を行い、組織としての意思決定を下すための確かな土台となります。
客観的な根拠に基づくコンプライアンス運用の確立へ
海外KYCとは、国際的な取引ルールに基づき「取引において客観的な問題がないか」をデータに基づいて確認し、その結果を記録に残す基本プロセスです。
手作業による確認の限界や確認工数の増大を解消し、スピーディかつ客観的なエビデンスを保持するためには、信頼性の高いデータベースを活用したスクリーニング運用の仕組み化が有効な手段となります。
審査の初期段階で迅速かつ客観的な事実を把握できる体制を整えることは、法務・コンプライアンス部門など管理部門の判断負荷を軽減するだけでなく、現業部門が安心して適時適切に海外ビジネスを展開するための力強い後押しとなるはずです。
海外取引のKYCスクリーニング運用にお悩みの方へ
ディー・クエスト海外KYCサービス「riskey Global」について
月額固定費ゼロで、1案件からの「スポット依頼」が可能な海外KYCスクリーニングサービスです。厳しいEU基準に準拠した高度な照合システムを活用し、世界各国の制裁リストやPEP、メディア情報等を専門調査員がスクリーニングし、レポートをご提供します。
複雑な検索工数や月額コストを削減しながら、社内外へ説明可能なガバナンス体制の構築を支援します。
