改正公益通報者保護法から考える「通報者ファースト」と濫用的通報対応:「DQシンポジウム2026」を開催

当社ディー・クエストは2026年7月9日(木)、内部通報・公益通報をテーマに「DQシンポジウム2026」を御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター(東京・千代田区)で開催し、総勢180名を超える方々にご参加いただきました。

DQシンポジウムは毎年、内部通報システムを提供する当社が主に企業の実務者を対象に主催するもので、今回は「改正公益通報者保護法から考える『通報者ファースト』と濫用的通報対応」を全体テーマに、企業で内部通報や内部監査、不正調査などに携わる実務者、通報対応やハラスメント事案対応を手掛ける弁護士らが登壇しました。

4つのプログラムで明らかにする「内部通報の今日的課題」

年々高度化する内部通報実務をめぐって、法務・コンプライアンス部門等の責任者・担当者に、その課題や悩みに“ヒント”を提供することをコンセプトとするDQシンポジウム。とりわけ今回は、2026年12月の改正公益通報者保護法施行を約5カ月後に控えた中での開催となりました。

また、例年と同様に、一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)が後援。米国に本部を置き、全世界9万9000人超の会員を有するACFE(公認不正検査士協会)の日本支部として、公認不正検査士(CFE)試験を実施するACFE JAPANの協力を得ることで、「内部通報制度の運用」と「不正防止・不正検査」という複眼的な視点を持つシンポジウムとなりました。

開会に先立って当社代表取締役の脇山太介が、四半世紀にわたって内部通報システムを提供してきた実績をもとに、公益通報を取り巻く環境の変化、通報制度に対する時代的要請、そして登壇者の全員がCFE資格も持つ不正検査のプロフェッショナルであることを紹介。開会のあいさつののち、以下のようなプログラムで進行しました。

当社代表取締役・脇山太介

【プログラム①】リアルQ&A出演者が振り返る「内部通報一問一答」特別編

酒井隆典弁護士

当社メディアの本Governance Qで毎週配信している動画シリーズ「内部通報一問一答」。25年8月のスタート以来、44回にわたって内部通報実務に携わる視聴者から寄せられた質問に答えてきた酒井隆典弁護士(新生綜合法律事務所)と当社取締役の福山隆秋が、「特別編」と題して全88問の内容を再確認、現場に共通する課題を抽出し、共有する機会となりました(26年7月14日現在、45回まで配信)。

酒井弁護士は、現場からの質問が「内部通報の“教科書”では取り扱われない実務の機微を反映した内容となっている」「必ずしも“一問一答”で明快な回答ができないことも多く、現場のみなさんのご苦労を実感する収録となっている」と振り返りました。

そして、これまでの視聴データをもとに傾向を解析。改正公益通報者保護法対応や効率的なシステム運営、調査におけるヒアリング技術など、実務を扱った内容に特に強い関心が集まっていたほか、濫用的通報をめぐる判断基準やルールづくりに関するニーズが高いことが明らかにされました。

【プログラム②】ハラスメント対応でこじらせがちな4つの場面

野村彩弁護士

続いては、野村彩弁護士(和田倉門法律事務所)が、企業内におけるハラスメント問題を取り上げ、相談・通報受付、調査、処分、再発防止の各フェーズで発生し得る対応リスクについて講演しました。

職場の心理的安全性を脅かすハラスメントについては、不正等のコンプライアンス事案とは別の通報ルートを設定する企業も増えているものの、相談の初期段階では必ずしも窓口を厳密に区分できない実態があることを指摘。また、他の不正事案との関連から内部通報制度による対応が求められる場合や、ともすれば濫用的通用に該当するようなケースもあり得るといいます。

さらに、当事者間で認識にズレがあることも多く、事実認定にも大きなハードルがある中、加害者側の自白がない状況でどのように問題に対処するかなど、本Governance Qでも連載を持つ野村弁護士(経営者のための「ハラスメント」アップデート講座)が、実際の調査経験と現場からの切実な本音を紹介しながら、分かりやすく解説しました。

【プログラム③】CFEによる「突然、不正調査に従事することになったら」

新藤和政氏

続く第3のプログラムは、各社で内部監査の実務に携わってきた新藤和政氏(NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社)による講演「突然、不正調査に従事することになったら」。自身がかつて経験した循環取引の調査をもとに、マクロとミクロ両面で不正調査の実際について解説しました。

不正調査の実施、是正措置、そして再発防止策の策定……と、内部通報担当者に求められる対応フローは、単に通報受付だけにとどまりません。ところが、特に不正調査においては独自のノウハウを要することが少なくない反面、通常の業務でそうしたスキルを身に着けることが難しいこともまた事実です。

先述のCFE(公認不正検査士)のほかにも公認内部監査人(CIA)といった専門資格を持つ新藤氏によると、これらが「専門性の証」になるとともに、資格取得の過程において不正や内部監査に関する素養を備えることが出来るといいます。さらに講演では、不正の端緒を掴むための具体的なチェックリストも紹介。「『不正はない』のではなく、『不正を見つけていない』だけ」――組織が内包する不正リスクについて警鐘を鳴らし講演を締め括りました。

【プログラム④】公開討論「通報者を守り、制度も守るには?」

そして、第4のプログラムが「通報者を守り、制度も守るには?――改正法後の実務をめぐるクロストーク」。ここからは前出の酒井弁護士と野村弁護士に加えて、複数の企業で内部通報体制の構築・運用に携わってきた瀧澤武氏(グローリー株式会社)が登壇し、当社福山を進行役にパネルディスカッションが行われました。

討論のベースとなったのが、本シンポジウム開催に先駆けて実施したアンケート「内部通報実務担当者実態調査」で、参加者等から寄せられた回答をもとに議論が進行しました。主な質問項目は、①「所属組織の概要」、②「回答者の実務への関与度合い・担当範囲」、③「内部通報実務における現在の不満要因」、そしてシンポジウムのテーマでもある④「『通報者ファースト』と『濫用的通報への対応』のバランスに関する不安」など。

アンケートを通じて、窓口に寄せられる通報内容の質について、各社共通で受付担当者が不満を抱いていること。また、人的リソースやシステム、受付から調査・是正に至るプロセス設計に関して、現場の担当者が拡充や刷新を求めている状況。さらには、「自社の内部通報制度に課題が多い」と認識している担当者ほど、経営層の理解不足を指摘する声が顕著である――こうした共通課題や相関性などが浮き彫りになりました。

これらの調査結果をもとに、「通報者保護」や「制度を危うくするもの」「改正法の実務」といったテーマを設定、ステークホルダー(利害関係者)ごとの視点を掛け合わせる形で議論が進められました。

なかでも濫用的通報については、今回の公益通報者保護法改正議論でも俎上に上がった通り、「濫用を防ぐことに偏重すると内部通報を委縮させる反面、濫用的通報によって担当者が疲弊してしまい、制度自体の持続可能性を損なう」という深刻なジレンマを伴うもの。それゆえ、シンポジウム参加者からも高い関心が寄せられました。

法律家である両弁護士が規程等での対応策に触れる一方、企業で新たに内部通報体制を立ち上げた経験を持つ瀧澤氏は、「当初は感情的に聞こえてしまう通報が、実際に調査を進めると、不正やトラブルの核心を突いた内容だったということも往々にしてあり得る」としたうえで、通報担当者が予断を持たないよう努めることの重要性について、指摘しました。

野村弁護士と瀧澤武氏(右)
酒井弁護士と当社・福山(左)

内部通報担当者から発せられた「私たちの悩みは?」との問い

そして最後に、当社が26年12月から順次リリースする「新内部通報システム」の概要を初お披露目。新システムの導入によって、これまでの「通報を受ける仕組み」から「通報案件を適切に運用し、記録し、説明責任を果たす仕組み」へと移行する新コンセプトを、AI(人工知能)機能搭載のデモ画面等を用いて紹介しました。

これをもって、全プログラムを終えた今回のDQシンポジウム。参加者の大多数から好評(アンケート調査の95%が「非常に満足」「満足」と回答)をいただきましたが、パネルディスカッションの質疑応答で、ある企業の担当者から次のような質問が発せられる一幕がありました。

「自分が行ったヒアリング調査のせいで対象者から精神的苦痛を受けたと申し立てられるなど、内部通報担当者は日々強いストレスにさらされています。ところが、従事者指定によって誰かと通報内容を共通することは守秘義務違反となり、悩みを打ち明けることもできない。われわれ担当者はどのようにメンタルを保てばいいのでしょうか?」

この問いに会場が共感の拍手に包まれましたが、逆に、これほどまでに内部通報の現場担当者の方々の悩みは深いということの証と言えます。当社としては、次回のシンポジウムのテーマは元より、新内部通報システムの投入をはじめ、そうした実態に少しでも対応できる支援サービスを今後も提供していきたいと考えております。

なお、当日ご来場いただけなかった方々に向け、近く本シンポジウムのアーカイブ動画の公開を予定しています。配信決定次第、ご案内をお伝えさせていただきます。また、パネルディスカッション時のアンケートについては、26年9月に最終的な調査結果をもとにしたウェビナーの開催を計画しています。こちらについても、ぜひともご参加ください。

*本シンポジウムの講演内容は各登壇者の個人的見解で、所属企業・団体等のものではありません。

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