本田宗一郎「失敗のない人生なんて面白くないですね。歴史がないようなもんです」の巻【こんなとこにもガバナンス!#5】
栗下直也:コラムニスト
「こんなとこにもガバナンス!」とは(連載概要ページ)
「失敗のない人生なんて面白くないですね。歴史がないようなもんです」
本田宗一郎(ほんだ・そういちろう、実業家)
1906~1991年。静岡県生まれ。22年高等小学校を卒業し、東京・湯島の自動車修理工場、東京アート商会に徒弟奉公して、自動車の修理技術を身につける。46年静岡・浜松市に本田技術研究所を創設し、エンジン付き自転車が大当たりする。47年原動機付自転車用エンジンを生産、48年同社を本田技研工業と改め、オートバイの生産を始める。63年軽トラックと小型スポーツカーを発表、73年アメリカで低公害エンジン「CVCC」搭載の「シビック」を発売、大ヒットして会社の基盤を固める。73年に最高顧問。
冷静に観察するマーケターとしての顔
「本田宗一郎=職人」のイメージからか、「技術のホンダ」と言われるが、創業者の本田宗一郎は職人であり、優れたマーケターでもあった。常に人々が何を欲しているのかを冷静に観察していた。
22歳で独立し自動車修理工場を構えると、修理の腕を見込まれ注文が殺到し、成功を収めた。仕事のみならず芸者遊びにも余念がなかったが、これも彼にしてみれば「人間の気持ちを知る」一環だったとか。
そのまま修理工場を経営していても何も不自由しなかったが、やがて修理業に飽きたらず、自動車部品のピストンリング製造に乗り出す。いずれは自家用車の時代が来る、そのためにはエンジンをつくらなければという壮大な野望があったのはいうまでもない。
ピストンリングはエンジンのピストンの外周にはめる部品だが、当たり前だが、いきなりつくれるわけがない。蓄えも底をつくまで追い詰められたが、工業学校の聴講生になって金属工学を一から学び、ついにピストンリングの製造に成功する。
その後も、エンジン付き自転車(バタバタ)、バイクのエンジン生産から始まり、バイク本体までつくり、自動車市場に打って出た。「庶民の足」の進化とともにホンダがあり、ホンダが「庶民の足」を進化させた。もちろん、規制や役所との苦闘など一筋縄ではいかなかった。
大きな失敗を繰り返した先にあるもの
「失敗のない人生なんて面白くないですね」は大きな困難を克服し、「世界のホンダ」を築き上げた宗一郎らしい言葉だ。
失敗に学べというが、多くの人は学べない。それは大きな失敗をそもそもしないからだ。大きな失敗をしないということは大きな成果も期待できない。思いっきりトライしながら、修正する。失敗しても次のトライにいかす。組織運営でも欠かせない姿勢だ。
(月・水・金連載、#6に続く)
関連記事
ピックアップ
- 【2024年10月9日「適時開示ピックアップ」】太洋物産、セブン&アイ、富士精工、タカキュー…
10月9日水曜日の東京株式市場は反発した。日経平均は3万9277円で取引を終えた。この日の適時開示は152件。この中からコーポレートガバナン…
- 【11/8(金)15時 無料ウェビナー】「品質危機」への警鐘《品質不正とガバナンスの最前線・連続ウェ…
本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…
- 【ガバナンス道場#3】“ポリスマン”か“アドバイザー”か、それが問題だ!?「価値創造・戦略に貢献する…
三宅博人:公認会計士 長年にわたりサステナビリティやガバナンスの実践と研究に携わる孤高の求道者、「マッチョ三宅」こと公認会計士の三宅博人氏の…
- 「踊る大捜査線 THE MOVIE」とコンダクト・リスク【遠藤元一弁護士の「ガバナンス&ロー」#2】…
遠藤元一:弁護士(東京霞ヶ関法律事務所) 「事件は会議室で起きてるんじゃない!」の名台詞 9月末、地上波で放映された1998年公開の劇場版「…
- 【10/18(金)15時 無料ウェビナー】品質不正における内部通報制度の死角:その課題と対応《品質不…
本誌「Governance Q」と日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)共催無料連続ウェビナー「品質不正とガバナンスの最前線:公認不…
- 起訴から9年越しの“無罪”になった「LIBOR“不正”操作事件」元日本人被告【逆転の「国際手配300…
有吉功一:ジャーナリスト、元時事通信社記者【関連特集】日本企業を襲う「海外法務リスク」の戦慄 はこちら (#1から続く)オランダの金融大手、…