「政治資金の監査」公認会計士協会も注視せよ!【ガバナンス時評#17】
正しい収入・支出をチェックするのが「監査」
政倫審に先んじて、この政治資金問題を受けて設置された自民党の「政治刷新本部」では、有識者から「外部監査を入れるべき」との提案があったという。
確かに、政治家の事務所の会計担当者が議員の配偶者や子どもなどの身内では、いくら「きちんと精査してチェックしている」といっても、もはや誰も信用しないだろう。あるいは、現行のように議員と一蓮托生の秘書が行う場合でも、独立性や客観性を保つことはできない。
そうではなく、政治資金に対する透明性や信頼性を高めるべきであるとの点から、独立の第三者による外部監査という話が出てくるのだろう。議員の側も、こうした方向性を受け入れるような姿勢を見せてもいる。
だが、ここに大きな落とし穴がある。それは、議員事務所など政治の側が考えている「監査」と、上場会社に対して行われる会計専門家による「監査」には大きな隔たりがあるという点だ。
おそらく政治の側は、政治資金報告書を提出する際に、税理士や会計士に報告書をチェックしてもらい、資金の「入」と「出」が合っているかだけを見てもらえばいい、という程度に考えているに違いない。そして、「外部監査による最終的なチェックを受けて、問題ないと見なされた内容を提出した」との、いわばお墨付きを得たいという程度の考えだろう。
もちろん、会計監査人の行う保証業務には、財務情報の全体に対する検証を行う会計監査以外に、一定の制約条件の下でなされる「合意された手続(Agreed Upon Procedures)」という保証業務もある。それは、依頼人から限定された範囲での検証の依頼を受け、与えられた条件の中で、相応の手続きを踏んで整合性を確認するような保証業務を指す。だが、これは現時点でも政治資金報告書を提出し、メディアや市民の監視の目にさらしており、その意味では「事務所が出せる情報の範囲」での検証は行われていることになる。
ところが、今般求められる「監査」とは、単に資金の「出と入」の数字が合っているかを見るだけの形式的な検証ではない。「正しい収入であり、正しい支出であるか」までをチェックする必要があるのだ。「入り」で言えば、政治献金を行った主体や、パーティー券を大量に購入した主体がどのような団体で、問題があるのかないのか。「出」で言えば、ホテルでの会食代として記録する際に、その食事の相手は誰なのか、誰が見ても政治活動と言えるようなものなのか、まで確認する必要があるのだ。
政治家の「監査」に対するアレルギー
そのため、実効性のある監査が行われるためには、その組織の財務に関する内部統制システムが存在していなければ話にならない。そして、「政治活動」の中身にまで踏み込んでチェックする業務監査まで行う必要があるのだ。
例えば今回、二階俊博元幹事長は不記載だった政治資金の支出の内訳として、自身をテーマにした書籍など3500万円分、実に2万7000冊余りを購入していたと発表した。「選挙区外の行政・議会担当者に配るつもりだった」としているが、実際に誰に配ったのか。本当に選挙区内の支持者に配ってはいなかったか。その際、選挙民に対する収賄の可能性はないのか、といった正当性や妥当性にまで踏み込んで「監査」を行う必要がある。そうでなければ、単に数字を突き合せただけの形式的なチェックに過ぎない。
当然、政治の側はそのようなことまでは考えていないだろう。以前、ある議員の求めに応じ、政治資金と監査に関する意見交換を行ったことがある。その際、議員はこのように言っていた。
「政治家も表向きは監査が必要だと言ってはいますが、議員にも事務所にも監査という言葉自体にアレルギーがあって、実際は誰も監査なんて受けたくない。そのうえ、内部統制だなんて言ったら、大変なことになりますよ!」
これが議員たちの本音だろう。
だとすれば、仮に外部監査を入れたとしても、それは建前を繕うだけのものにしかならないばかりか、最悪の場合は何かあった時には、監査人がスケープゴートにされかねない。
つまり、それまでにどのような処理をしていたとしても、「外部監査が見た」ことですべての最終的な責任が監査人にのしかかることとなり、問題発生時には「最後にチェックした監査人に問題があった」とされかねない、ということだ。そもそも外部監査どころか、会計の責任を外部に丸投げするようなものなのである。
政治家側が徹底して透明性を担保するために、監査として成り立つところまで踏み込んだ制度をつくるというならいい。だが、外部監査にすべての責任を押し付けかねない、単なるスケープゴートのために会計監査が使われるようなことは、決してあってはならない。
この点、日本公認会計士協会も、政治資金監査の動向には、十分に注視することが求められている。
取材・構成=梶原麻衣子
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