【経営者と女性スキャンダル#4】金野志保弁護士に聞く「不適格トップ」を排除するための“平時の準備”と“有事の即応”
(特集#1、#2、#3から続く)不貞行為に代表される経営者の個人問題、とりわけ男性トップの女性スキャンダルをさまざまな視点から検証する本特集。#4では、これまで数多くの上場企業で社外役員を歴任し、現在もマネックスグループやLIXILなどで社外取締役等を務める金野志保弁護士をインタビューした。法律家としての実務のみならず、各社の社外取経験で培ったコーポレートガバナンスに関する知見から、“醜聞トップ”を生み出さない、そして時に適切に排除する術を聞いた。そして、「ボード・ダイバーシティ(取締役会の多様性)」の重要性を説く金野弁護士が考える経営トップのあるべき姿とは――。
セクハラ・不倫が浮き彫りにする経営者の“不”適格性
――昨今、企業トップの不祥事がメディアで取り上げられるケースが増えてきました。直近ですと、東証プライム上場のドラッグストア最大手、ウエルシアホールディングスの松本忠久社長が、不倫を理由に会社から辞任勧告を受け、4月17日に社長を辞任しました。
まず、いわゆる企業不祥事とは異なる企業トップの私生活上の問題が、なぜ辞任・解任等にまで及ぶべきことなのか、についてはあまり論じられていないように思います。私見ではありますが、まずこの点について整理したいと思います。
セクシャルハラスメントの場合は不同意わいせつ罪にもあたるべき刑事上の罪に問われる可能性のある行為ですし、不倫であっても夫婦の貞操義務違反、民事上の違法行為です。このように、法律の規定に反し、人権を軽視し、契約上の義務違反等を行うような企業トップが、多様なステークホルダーからの信頼を受けることができるはずがないことは明らかかと思われます。
例えば取引先にとっては、契約上の義務の遵守を期待できない社長である、と見られかねません。従業員にとっては、社長が尊敬の対象にならないばかりか、いくら「社員を大切にする」と言われてもにわかに信じがたい、ということになりますし、特にこの類の問題は女性従業員からは悪印象となることと思われ、つまりは従業員を失い、人的資本の喪失を招きかねません。また、いかに企業としてESG(環境・社会・ガバナンス)経営を標榜したところで、トップが人権の尊重をできない企業と見られたら投資家からの信頼をも失いかねません。このように、セクハラや不倫は取引先、社員、株主等多くのステークホルダーの信頼を裏切る行為であり、企業の風評をも大きく毀損する行為といえるでしょう。
そして、自分の行為にそのようなリスクがあることも認識できない人が、このさまざまな不確実なリスクが存在する時代に、そういったリスクを乗り越えて企業を成長させることができるでしょうか。
不倫等が「男の甲斐性」と言われていたのは過去の時代であり、もはやそういったことが許される時代ではない、という時代を読む目がないことも、やはり企業トップの適格性を疑わせるものとなると思います。
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