改正公益通報者保護法の重要ポイント②従事者指定義務、通報妨害・通報者探索の禁止【「改正法対応」最終チェック#3】

前回記事

改正公益通報者保護法の重要ポイント①【実務者向け「改正法対応」最終チェック#2】

2026年07月01日

中野 真

今年2026年12月1日に施行が予定される「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(以下「改正法」)。2015年から約5年間、消費者庁で公益通報者保護制度の設計や運営に携わり、企業の内部通報実務に精通した中野真弁護士が、改正法の重要ポイント、改正法により想定される企業への影響について、4回に分けて解説する本シリーズ。#3の今回は、改正法のうち、事業者等のとるべき措置に関する改正について解説する。

1 事業者等のとるべき措置に関する改正の概要

#1では、公益通報者保護法の目的である事業者による法令の遵守を図るため、公益通報を受ける事業者の側においてとるべき措置に関する規定があることを解説した。改正法では、こうした事業者等のとるべき措置に関する規定についても改正があり、具体的には、以下の改正が行われた。

  • 従事者指定義務に係る消費者庁の執行権限の強化(立入検査権限および是正命令の権限の新設)
  • 法定指針の改正による従事者指定義務および体制整備等義務の範囲の拡張
  • 通報妨害行為の禁止規定の新設
  • 通報者探索行為の禁止規定の新設

このうち、「法定指針の改正による従事者指定義務および体制整備等義務の範囲の拡張」については、事業者内の内部通報制度の改正に大きくかかわる部分であるため、次回#4において解説し、今回はそれ以外の項目を解説する。

2 従事者指定義務に係る消費者庁の執行権限の強化

改正法の施行前は、従事者指定義務違反の調査権限について、報告徴収に限定されており、義務違反があった場合の措置については勧告および公表に限定されていた。

しかし、従事者指定義務は、事業者の体制整備の中核的役割を果たす特に重要なものである一方で、消費者庁のこれまでの是正指導や実態調査の結果から、事業者において、従事者指定義務の履行が徹底されていない状況が明らかとなった。また、従事者の守秘義務違反には刑事罰が規定されている一方、従事者指定義務違反は最終的に刑事罰による実効性が担保されていないことについてバランスを欠くとの指摘もあった。

このような点を踏まえて、改正法では、法的義務である従事者指定義務について、消費者庁長官による立入検査権限を新たに認めたほか(改正後の法116条1項)、法的義務である従事者指定義務に違反した場合には、消費者庁長官による措置命令の対象とした(改正後の法15条の2第2項)。さらに、立入検査等の妨害や措置命令の違反に対しては刑罰の対象とし(改正後の法21条2項)、従事者指定義務の履行を徹底させようとしている。

1 説明なく条文の前に「法」と付す場合の「法」は公益通報者保護法のことを指す。

なお、体制整備等義務については、立入検査や措置命令等の対象とすることは企業活動に対する公権力の過剰な介入となるおそれがあるとされたため、執行権限の強化の対象とはされなかった。

従事者指定義務の違反が刑罰で担保された措置命令の対象となったことに伴い、法的義務である従事者指定義務違反の通報が公益通報となった。そのため、例えば、コンプライアンス部門の職員が、上司に対し、従事者指定義務の懈怠について進言をしたところ、上司が当該進言を理由として職員に対して仕事外し等の不利益な取扱いを行った場合には、当該行為は、公益通報を理由とする不利益な取扱いとして違法となり得る。

改正公益通報者保護法で執行権限が強化される消費者庁

3 通報妨害行為の禁止

改正法の施行前は、公益通報を妨害する行為について明示的に禁止する規定はなかった。他方で、誓約書や契約によって労働者に公益通報をしないことを約束させるなど、公益通報を妨害する行為は、公益通報者の保護を図るとともに、事業者の法令の規定の遵守を図るという公益通報者保護法の趣旨に大きく反する行為であり、そのような契約や合意を締結するよう要求された場合、公益通報を躊躇する要因となり得る。

このような点を踏まえて、改正法では、公益通報を妨害する行為を禁止し、公益通報の妨害行為が行われた場合、当該行為は違法となり、公益通報をしない旨の合意は無効とされた(改正後の法11条の2)。公益通報の妨害行為が違法と認定された場合には、不法行為等に基づく損害賠償請求の対象となる。

妨害禁止の対象となる公益通報については、外部への公益通報(行政機関やマスコミ等への公益通報)に限定されるものではなく、内部通報窓口以外の内部への公益通報(職場の上司等への報告等)も含むため、例えば、上司が、法令違反行為を知った部下社員に対し、社長には報告をしないようにと申し向ける行為についても、公益通報の妨害行為に当たる場合があり、「正当な理由」がない限りは民事上違法となる。

「正当な理由」は民事上の違法性阻却事由と解され、個別具体的な事情を踏まえて判断されるものであるが、消費者庁は、通報妨害行為は、原則、許容されるものではなく、「正当な理由」は限定的な場合に留まるべきであるとしている。消費者庁は、「正当な理由」が認められると考えられる場合の具体例として、労働者に対して、特段の根拠もないのに単なる思い込みで報道機関や取引先等に通報行為をしないよう文書又は口頭で求めることを挙げている。

4 通報者探索の禁止

改正法施行前は、公益通報者の探索行為を防止する措置を体制整備等義務として求めてはいたものの、公益通報者の探索行為そのものを明示的に禁止する規定はなかった。しかし、公益通報者を探索する行為は、公益通報者自身にとって脅威となるほか、公益通報を行うことを検討している他の労働者を萎縮させるものである。

このような点を踏まえて、改正法では、公益通報者の探索行為を禁止し、公益通報者の探索行為が行われた場合、当該行為は違法となるとされた(改正後の法11条の3)。公益通報者の探索行為が違法と認定された場合には、不法行為等に基づく損害賠償請求の対象となる。

公益通報については、内部通報窓口以外の内部への公益通報(職場の上司等への報告等)も含むため、例えば、コンプライアンス部門によるヒアリング調査においてヒアリング対象者である労働者が供述した内容が公益通報に該当する場合もある。このような場合、被通報者が、当該供述を行った者が誰であるかを尋ねる行為は、公益通報者の探索行為に該当し、「正当な理由」がない限りは民事上違法となる。

「正当な理由」は民事上の違法性阻却事由と解され、個別具体的な事情を踏まえて判断されるものであるが、消費者庁は、通報者探索は、原則、許容されるものではなく、「正当な理由」は限定的な場合に留まるべきであるとしている。消費者庁は、「正当な理由」が認められると考えられる場合の具体例として、匿名の通報について、通報者が具体的にどのような局面で不正を認識したのかなどを特定した上でなければ、必要な調査や是正ができない場合に、公益通報に対応する際、本法第12条の規定により守秘義務を負う従事者が通報者の特定につながる事項を問うことを挙げている。

(最終回#4につづく)

サイト内検索