現行の公益通報者保護法を再確認する【実務者向け「改正法対応」最終チェック#1】

昨年2025年6月に「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(以下「改正法」)が公布され、今年26年12月1日に施行が予定されている。本シリーズでは、消費者庁で5年半にわたり公益通報者保護制度の企画立案を担当し、企業の内部通報実務に精通する中野真弁護士が、改正法施行が半年を切る中、現場担当者の準備に資するよう、現行の公益通報者保護法の基本的な内容を確認した上で、改正法の重要論点、改正法により想定される事業者への影響について、4回に分けて解説。

今回の#1は、現行の公益通報者保護法の基礎の再確認からスタートする。

1 公益通報者保護法の概要

2000年代初頭に事業者の法令違反行為(企業不祥事)により国民(消費者、投資家、労働者など)が多大な不利益を受けた事案(リコール隠し、食品偽装、医療事故隠ぺい等)が相次いで発生した。

こうした企業不祥事の多くが、内部告発を含む内部者による「通報」を契機として明らかになったことを踏まえて、企業不祥事の早期発見および未然防止には内部者による通報を促すことが重要と考えられた。このような経緯で、04年に公益通報者保護法が制定され、06年から施行されている。

この公益通報者保護法の制定経緯からも分かるように、公益通報者保護法は、公益通報を促し、その適切な活用を通じて、事業者による法令1 違反行為を早期に発見または未然に防止し、法令の遵守を図ることを目的とする法律である。

1 厳密には、公益通報者保護法が遵守を図る「法令」は、個人の生命または身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律(公益通報者保護法も含む)に限定されている。

こうした目的を踏まえ、公益通報者保護法は、①「公益通報」の範囲を明確にした上で、②内部者に公益通報を促すための規定(不利益な取扱いからの保護規定)、③通報を受ける側の事業者に公益通報に適切に対応させるための規定(事業者等のとるべき措置に関する規定2)を置いている。

2 厳密には、「事業者等のとるべき措置に関する規定」の中にも、守秘義務等の公益通報を促すための規定が含まれている。

2 公益通報者保護法2条1項が定める「公益通報」の範囲

社会において行われる通報にはさまざまなものがあるが、公益通報者保護法の適用の対象とするか否かについての線引きを行う必要がある。この線引きとなるのが、「公益通報」(法2条1項3)の概念である。「公益通報」に当たる場合には、公益通報者保護法の適用があるが、「公益通報」に当たらない場合には、基本的には公益通報者保護法の適用はない。

3 説明なく条文の前に「法」と付す場合の「法」は改正法施行前の公益通報者保護法のことを指す。

そして、「公益通報」に当たるためには、以下の7つの要件を満たすことが必要である。今回の改正においては、以下のうち①について、特定業務受託従事者(いわゆるフリーランス)が加えられるなどの改正がなされた。

① 法定の者による通報であること(労働者、法人の役員、1年以内の退職者)
② 通報者の役務提供先の違法行為に係る通報であること
③ 不正の目的による通報ではないこと
④ 法が定める「通報対象事実」の通報であること(対象法律中の罰則で担保されている規定違反行為)
⑤ 通報対象事実が現に生じているか、まさに生じようとしていること(切迫性)
⑥ 法定の通報先への通報であること(事業者内部、権限を有する行政機関、その他外部)
⑦ 通報であること(匿名通報、上司への報告、是正要求のない情報提供等を含む)

3 不利益な取扱いからの保護規定

危害を加えられたと感じたら、反撃(復讐、報復)をしたくなるのが人間の通常の感情である。

公益通報が行われた場合、被通報者が通報者から「危害を加えられた」と感じ、解雇や配転などの明確な不利益とまではいわないまでも、目を付け、仕事から外し、出世をしにくくさせるなどの不利益を課されやすいという実態が存在する。

しかし、公益通報を行った結果として不利益な取扱いを受けるという懸念があれば、不正を知った者が公益通報を行うことを躊躇するため、このような懸念を払拭する必要がある。

こうした観点から、法3条以下では、通報先に応じた保護要件を満たすことを前提として、公益通報を理由とした不利益な取扱いから公益通報者を保護する規定を置いている。これまで、この不利益な取扱いからの保護規定は全て民事ルールであったが、2026年12月施行の改正法では保護規定のうち一部について刑罰の対象とする等の改正が行われている。

4 事業者等の義務

公益通報者保護法の目的は、事業者による法令の遵守であるが、法令の遵守を図るためには、内部者から公益通報が適切に行われるだけでは足りず、公益通報を受ける事業者の側において、公益通報の受付、調査、是正等の措置を適切に行う必要がある。

また、内部者が不利益な取扱いの懸念なく公益通報を適切に行うことができるようになるためには、事業者の側において公益通報者を保護するための取り組みを行うことが必要である。

こうした観点から、公益通報者保護法では、以下のような事業者等の義務を定めており4、改正法でも事業者等の義務の改正が行われている。

4 法11条1項および2項の義務の性質は、労働者数が300人以下の事業者については努力義務であり、労働者数が300人を超える事業者については法的義務である(法11条3項)。

(1) 公益通報対応業務従事者の指定義務

事業者は、内部通報窓口経由の内部公益通報について受付、調査、是正などを行う者について、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」)として指定する義務を負う(法11条1項、法定指針5第3)。

5 「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)を指す。以下同じ。

(2) 従事者の守秘義務

事業者に従事者として指定された者は、内部公益通報の受付、調査、是正等の業務を行うに際して知った公益通報者を特定させる情報について守秘義務を負い、当該情報について正当な理由なく漏らしてはならず(法12条)、違反した場合には、刑罰の対象となる(法21条)。

(3) 内部公益通報対応体制の整備等の義務

事業者は、内部通報制度の整備、内部公益通報の受付・調査・是正、公益通報者の保護体制の整備等の義務を負う(法11条2項、法定指針第4)。

(4) 行政機関の義務

行政機関は、外部からの通報についても対応する体制の整備等の義務を負う(法13条および14条)。

(#2につづく)

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