【八田進二の「監査とガバナンスの未来」#6】昭和40年代の監査制度、全面的な見直しの動向

すべてのシリーズ記事はこちら

前回記事

昭和40年「監査実施準則」の改訂:「試査による監査」を支える内部統制組織の信頼性

1957年(昭和32年)1月から開始された「正規の監査」ではあったが、相次ぐ粉飾経理発覚と、それに伴っての監査の失敗ともいえる監査人の処分事例が続発したことから、公認会計士監査等の充実強化に向けた取り組みがなされることとなった。

まず、監査人の行動規範とされる監査基準の改訂および監査実施準則と監査報告準則の改訂作業が進められ、諸般の事情から、優先して進められた監査実施準則が、1965年(昭和40年)9月に改訂されることとなった。その後、66年(同41年)4月に、監査基準と監査報告準則の改訂がなされたのである。

東海道新幹線の開通は1964年10月(写真は新幹線O系)

「正規の監査手続」から「通常の監査手続」への呼称変更

監査実施準則は監査の実際のやり方、すなわち、監査手続の詳細が定められているものである。改訂後の「第一 総論」では、「監査手続は、『通常の監査手続』と『その他の監査手続』とから成る」として、改訂前の「正規の監査手続」なる呼称については、これを「通常の監査手続」と称し、財務諸表監査において、「実施可能にして合理的である限り省略してはならないもの」であると規定している。

一方、「その他の監査手続」は、「監査人が、その時の事情に応じ必要と認めて実施すべきもの」である。いずれにしても、監査人は、自己の意見を保証するに足る合理的な基礎を得るために、通常の監査手続のみならず、その他の監査手続を実施すべきものとしている。

改められた「試査による監査」の考え方

そして、「監査手続の適用は、試査による」とし、従来、「原則として試査による」としていた考えを修正するとともに、「試査の範囲は、企業の内部統制組織の信頼性の程度を勘案して、合理的にこれを決定する」としている。つまり、公認会計士監査が適用される企業の場合には、大前提として、「信頼しうる内部統制組織が整備・運用されている」との理解があってのことである。

というのも、監査契約の締結に際しては、監査の実施が可能かどうか、すなわち、試査による監査が可能かどうかを調査しなければならず、したがって、「内部統制組織が、著しく不備あるため、監査実施の基礎条件が成熟していないと認められる場合には、監査契約の締結を見合わせるか、または、一定期間を限り内部統制組織改善のための指導を行うことが望ましい。」と規定しているからである。

そのため、「第二 通常の監査手続」は、「適当な内部統制組織を有する」株式会社に対して行う監査手続であると規定している。そして、この通常の監査手続は、その目的および実質的内容により、「予備調査の手続」、「取引記録の監査手続」、「財務諸表項目の監査手続」という3種類の手続から構成されている。

まず、予備調査の手続については、監査人が当該企業に対して初めて実施する監査である「初度監査」の予備手続と、前年度から連続して財務諸表監査を行う会社について実施する「連続監査」の予備手続がある。

初度監査は、当該会社に対して監査人が初めて監査を行うことから、予備手続では、以下の掲げる内容について、特に入念な調査を行うことが重要である。すなわち、①会社の概況の調査、②過去の業績の調査、③内部統制組織の調査、④会計組織・関係方針の調査、⑤原価計算制度の調査、⑥諸勘定期首繰越高の調査が挙げられており、必要に応じて、過年度に遡って会計記録の当否を確かめることになる。

一方、「連続監査」の場合の予備手続については、初度監査の予備手続での調査事項のうち、前期と当期とを比較して変更の有無を調べ、もし変更があればその内容と理由を調査することになる。

現在の監査も抱える「予備調査」をめぐる問題

ところで、この「予備調査の手続」に関しては、現在の監査が抱える問題にも通じる視点がある。有り体に言えば、たとえ上場会社であっても、監査人は「ダボハゼのように」まさに、見境なく監査を引き受けてはならず、まずは、当該会社が「通常の監査手続」でもって監査を行える企業かを確認することが不可欠である。すなわち、一定程度以上の信頼性が担保されている内部統制組織が整備・運用されているか、さらには、経営者をはじめ監査に際して誠実な対応をしてくれるかどうかを見極めたうえで、監査契約を締結すべきなのである。

実際、予備調査の手続の末に監査を引き受けられないとされる上場会社が稀に散見される一方、それまでの監査人が退任して、すぐに新たな監査人が就任するというケースが後を絶たないのも実情である。監査実施準則には、その会社が前年度において他の監査人の監査を受けた場合には、詳細な手続を省略できる旨の記載があるが、それでも、初度監査での予備調査の手続を実施するには、それ相応の時間を要することを考えると、果たして、監査人がその責務を果たしてきているのか、疑問が残る事例もある。

監査実施準則が定める「期中記録の監査手続」と「期末残高の監査手続」

監査実施準則では、予備調査の手続の次に、「取引記録の監査手続」の内容について項目別の具体的手続等を規定している。取引記録の監査手続の目的は、「会社の内部統制組織が実際に有効に運用されているかどうか及び取引記録が『企業会計原則』に継続的に準拠しているかどうかを調査することにより、取引記録の信頼性の程度を確かめることにある」とされている。なお、「取引記録」とは、会社の経営活動を正規の簿記の原則に従って、会計帳簿に記録する行為とその結果作成される会計記録それ自体を含むものと解されている。

こうした目的達成のため、準則では、具体的に、売上高、仕入高および製造費用といった3つの損益関連項目と、売掛金、受取手形、買掛金、支払手形、有形固定資産、現金預金、仮勘定といった7つの貸借対照表関連項目に加え、実質的な支配従属会社との取引の、11項目について、通常実施すべき手続を明記している。このように、「取引記録の監査手続」は、当該企業の内部統制組織の有効性の程度を検証することでもあり、基本的には、いわゆる「期中取引の監査手続」と解することができる。

これに対して、いわゆる「期末残高の監査手続」とも称される、通常の監査手続として、「財務諸表項目の監査手続」が規定されている。その目的は、「取引記録の監査の結果得られた信頼性の程度に照応して、勘定残高の当否を確かめ、さらに財務諸表の表示方法の妥当性を検討することにより、財務諸表が『企業会計原則』に継続的に準拠して作成され、会社の財政状態及び経営成績を適正に表示しているかどうかを確かめるにある」と規定している。

かかる目的達成のため、第1に、資産・負債・資本を構成する主要な貸借対照表項目、第2に、売上高、販管費および一般管理をはじめ、決算整理に係る損益計算書項目、そして第3に、財務諸表の表示方法に関する監査手続を具体的に規定している。こうした手続を実施することで、財務諸表監査の目的である、財務諸表の適正表示に関する監査意見を述べることができるのである。

昭和41年「監査基準」および「監査報告準則」の改訂:「監査報告書」の記載様式の確立と監査意見の類型化

監査制度の改革を目指して行われた、昭和40年代の監査基準及び準則の改訂作業については、先に「監査実施準則」の改訂(1965年9月)がなされ、半年遅れの66年(昭和41年)4月に、「監査基準」および「監査報告準則」の改訂がなされることとなった。

まず、「監査基準」に関しては、「第一 一般基準」「第二 実施基準」そして「第三 報告基準」の体系に変更はないものの、改訂前の「監査基準」で呼称されていた「監査一般基準」「監査実施基準」そして「監査報告基準」の表記の中の「監査」との語句が削除され、今日に至っている。

そこで、まず「一般基準」では、改訂前の内容と実質的に同様に、①適格性の基準、②精神的独立性の基準、③正当な注意の基準、そして④秘密保持の基準の4つの基準を規定している。次に、「実施基準」では、改訂前の項目および内容を大幅に簡素化して、①監査の計画性の基準、②試査範囲決定の基準、③合理的基礎の基準の3つの基準とされた。そして、最後の「報告基準」では、ほぼ改訂前と同様に、①監査報告書の記載内容の基準、②監査人の意見表明の基準、③補足的説明事項の基準の3つの基準を規定している。

規定内容が明確化された監査報告準則

これを受けて改訂された「監査報告準則」では、前準則での規定内容をより明確にした規定内になっている。

まず、「一 監査報告書の記載方式」にて、「監査人は、監査報告書に実施した監査の概要及び財務諸表に対する意見を簡潔明瞭に記載し、作成の日付を付して署名押印しなければならない。」と定めている。続いて、「二 監査の概要」においては、①監査の対象となった財務諸表の範囲、②監査が『監査基準』に準拠して行われたかどうか、③通常実施すべき監査手続およびその時の事情に応じて必要と認めた他の監査手続が実施されたかどうか、を記載すべきことを規定している。これは、一般に監査報告書における「概要区分」ないしは「範囲区分」と称される箇所における記載事項である。

さらに、「三 財務諸表に対する意見」においては、次の3つの事項を示して、「財務諸表が会社の財政状態及び経営成績を適正に表示しているかどうかを記載しなければならない」と規定している。すなわち、①「会社が採用する会計処理の原則及び手続が『企業会計原則』に準拠しているかどうか」(いわゆる「会計基準準拠性」)、②「会社が前年度と同一の会計処理の原則及び手続を適用しているがどうか」(いわゆる「継続性の遵守」)、そして、③「財務諸表の表示方法が、一般に公正妥当と認められる財務諸表の表示方法に関する基準又は法令に準拠しているかどうか」(いわゆる「表示の合法性」)の3つである。

「無限定意見」と、「限定意見」または「不適正意見」

なお、これらの事項のいずれかの記載に関して、「重要な除外事項があると認めた場合には、当該除外事項を明示し、かつ、それが財務諸表に与えている影響を記載しなければならない」としている。さらに、この除外事項が財務諸表に特に重要な影響を与えていると認めた場合には、「財務諸表が会社の財政状態及び経営成績を適正に表示していない旨及びその理由を記載しなければならない」と規定している。

つまり、3つの個別の記載事項に問題がない場合に記載される適正意見については、通常、「無限定意見」とも称されており、これに対して、重要な除外事項が記載される場合には、除外事項付きの監査意見ということで、その重要性の程度により、「限定意見」または「不適正意見」が表明される。

「意見差控報告書」に関する規定

さらに、「四 財務諸表に対する意見の差控」では、「重要な監査手続が実施されなかったこと等の理由により自己の意見を保証するに足る合理的な基礎が得られず、財務諸表に対する意見の表明ができない場合には、財務諸表に対する意見を差し控える旨及びその理由を記載しなければならない」として、いわゆる「意見差控報告書」が発行される場合を規定している。

これは、個別の意見区分での除外事項ではなく、まさに、「概要区分」に関する除外事項が付された場合が前提とされている。したがって、監査人の本来の使命である財務諸表に対する意見の表明がなされないことから、これは「無意見報告書」と称すべきものなのである。

なお、この「意見差控報告書」については、その後、2002年(平成14年)1月の監査基準および監査報告準則の改訂において、呼称の精緻化等がなされたことで、これについては「意見を表明しない」ということで、通例、「意見不表明」と称することになるのである。

このように、改訂された監査報告準則では、監査人の意見の類型化がより明確になされるとともに、改訂前の準則と同様に、財務諸表に対する利害関係者の判断に資するため特に必要と認められる事項として、「貸借対照表日後に発生し、かつ、監査報告書作成日までに当該事項が判明した場合には、監査人は、監査報告書に補足して記載する」として、いわゆる「補足的説明事項」について定めている。

すべての利害関係者に供される「短文式監査報告書」

以上の内容より明らかにように、今回の監査基準および監査報告準則の改訂を通じて、公認会計士による財務諸表監査の結論書としての監査報告書については、簡潔明瞭で、かつ、一定の記載文言による書式が採用されており、これをもって、「短文式監査報告書」と称している。それは、「概要区分」と「意見区分」の2つに分け、監査報告書作成日、監査人の署名押印、そして、会社と監査人との利害関係を記載することを要請しており、すべての利害関係者の用に供されることが想定されている。

なお、これに対して、「長文式監査報告書」なるものもあるが、これについては非公開を前提に、特定の監査依頼事項に即して、監査人の意見または批判等を記載して、依頼人に結論を報告するものである。

ただし、わが国の監査制度の充実・発展に向けて俎上に載せられる監査報告書は、不特定多数の利害関係者を前提とする、短文式監査報告書であり、そこでの最終結論である「適正表示」に関しての意見表明の内容については、その後もいろいろ議論されることとなるのである。

(#7につづく)

すべてのシリーズ記事はこちら

サイト内検索