【損保ジャパン「金融庁処分」の深層#2】18年前の“同根の業務停止命令”
【背景②】契約者保護の精神が欠落
損保ジャパンが、これまでビッグモーターの不正請求の対象となった契約者に対する十分な調査もせず、また今後ビッグモーターに不正請求をさせない仕組みもつくらないまま、取引再開を決定したことは、新たな不正の犠牲者を生む危険性をまったく考慮しない契約者保護に著しく欠ける行為です。
保険金を迅速かつ適正に支払うのは保険会社の最も基本的な機能です。この機能が損なわれれば、保険の存在理由がなくなってしまいます。この点について金融庁は、ビッグモーターの不正請求に対して損保ジャパンが管理・牽制しなかったことは、〈BM社に不正行為を惹起させる「土壌」を生じさせるとともに、結果としてBM社の不正請求を助長し、顧客被害の拡大につながった〉と指摘しています。つまり、金融庁は、損保ジャパンはビッグモーターの不正を幇助し、共犯関係にあったと見なしているということです。
【背景③】形だけの内部統制
会社を健全に発展させ、不正・不祥事を防止するためには、会社の各部署がそれぞれの業務の執行にあたり、法令とコンプライアンスを遵守していくことが必須です。そして各部署と仕組みが期待通り動いているかをチェックするために、①業務運営部門=②リスク管理部門・コンプライアンス部門=③内部監査部門という3層によるモニタリング体制を敷くことが、一般的に行われており、損保ジャパンもそうなっています。
しかし、SOMPOHD調査報告書と金融庁業務改善命令書では、いずれも機能不全に陥っていたことが詳細に指摘されています。ビッグモーター問題に関わっていた保険金サービス企画部、東京保険金サービス部、モーターチャネル営業部、法務コンプライアンス部、調査部、経営企画部は、それぞれ主体的に問題に係わろうとせず、チェック機能もまったく発揮していなかったのです。
また、内部監査部は本来、営業部門やコンプライアンス部門などから独立した立場で、コンプライアンス・リスクに関する管理態勢について検証し、管理態勢の構築やその運用に不備があれば、経営陣に対して是正を求めることなどが要請されているのですが、金融庁は〈同部によるリスク評価において、不正請求リスクを適時・適切に評価しておらず、保険金サービス部門等への監査において、今回の当庁検査で認められた多数の内部統制上の問題を検知・是正できていないなど、第3線としての機能を果たせていない〉と酷評しています。
損保ジャパンにおいて、なぜこのような“機能不全”が全社的に現れるのでしょうか。結局は営業第一主義の社内風土が、営業を掣肘するような行動を忌避する文化をつくり上げていたというほかありません。
【背景④】金融庁への虚偽報告(2022年7月19日)
2022年7月19日に損保ジャパンは、金融庁にビッグモーター問題について任意報告しています。保険会社が子会社や業務の委託先(代理店等)において不祥事件が発生したことを知った場合、金融庁に報告する義務が保険業法で定められています。損保ジャパンが提出した報告内容は、自主調査の結果、不正の自認がなかったので上司からの指示があったとまでは認定できないとして、ビッグモーターとの取引再開を決めたというものでした。
しかし、ビッグモーターが自主調査結果を改竄していた事実を伏せていたのです。報告は金融庁に対する折衝窓口である調査部によって行われたのですが、官を欺く行為です。金融庁は、「重要事項の未報告」と控えめな表現をしていますが、金融庁の判断を左右する重要な事実を告げず、問題がなかったとするのは虚偽報告以外の何物でもありません。
実は、金融庁はこの時点で、損保ジャパンの報告内容が極めて不十分で不正確であることを知っていました。先述のように三井住友海上の経営陣は、ビッグモーターの不正に対して断固たる姿勢で対処する立場を固めていたので、6月10日には金融庁にビッグモーターの不正行為について、内部告発があったこと、サンプル調査の実施、ビッグモーターへの自主調査の依頼および車両紹介停止等について詳細な報告をしていたのです。
したがって、金融庁は両社の報告のニュアンスの違いを認識しており、その後2022年9月9日に損保ジャパンがビッグモーターへの車両紹介を再停止したことを見て、損保ジャパンへの心証を著しく害したであろうことは容易に推察できます。この不信感が金融庁のその後の損保ジャパンへの厳しい対応につながっていったのです。
【背景⑤】反省のない企業体質
実は、2002年に損保ジャパンが発足してから、「営業第一主義」を咎められて、金融庁の処分を受けたのは今回が初めてではありません。保険金の不当な不払いや違法な勧誘、架空契約作成等が発覚し、2006年5月にも金融庁から「業務運営が営業偏重となっている」と指摘され、全店2週間の業務停止命令(ある支店では、その行為の悪質性により1カ月の営業停止)を受けているのです。この時は、当時の社長以下、関係役員が辞職に追い込まれました。
処分事由としては、保険金等支払に係る調査態勢不備、海外拠点における保険証券の二重発行、生命保険の不適切契約、他人の印鑑の大量保有とその使用、内部監査および監査役監査が金融庁検査で指摘された経営上極めて重要な問題等について、適切な指摘や改善勧告を行っていないなどでした。この時、金融庁は、損保ジャパンが悪質な違法行為が判明した後も、原因究明と再発防止対策に取り組まないこと、過大な営業ノルマを課したため、法令違反となることを知りつつ社員が自ら不適切・不正行為に走ったことを特に問題視していました。
その後、損保ジャパンは業務改善計画に沿って、ガバナンスの仕組みと業務遂行体制を改革し、整備したはず……でした。ところが、その18年後の今、まったく同根の不祥事を発生させ処分されるという“先祖返り”をしてしまったのです。金融庁の憤懣、知るべしでしょう。この思いが、#1で前述した1月25日の鈴木俊一金融担当大臣の「金融庁としては、企業文化や経営のあり方まで踏み込んで必要な改善が進んでいるか丁寧に見ていく」につながっているのです。
続く#3では持ち株会社、SOMPOHDについて分析します。
(#3に続く)
【前回シリーズ】「ビッグモーター×損保会社」問題の核心(全6回)
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