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【経営者と個人スキャンダル#1】岩田喜美枝さんに聞いた「社外取締役 4つの役割・責任」

岩田喜美枝:元資生堂副社長 / 元厚生労働省 雇用均等・児童家庭局長

企業トップの私生活に起因したスキャンダルが後を絶たない。かつては週刊誌が口火を切って新聞やテレビが後追い報道をしても、一定期間が過ぎれば、口の端に上らなくなるものだった。しかし今や、記事がネット配信されるうえ、SNSが普及したことで、発生から数年を経ても何らかの拍子に掘り起こされたり、「デジタルタトゥー」が半永久的に刻まれたりという時代。さらには、匿名コメント欄が真偽の検証もなく、大炎上する危険性すら孕んでいる。

人間である以上“魔が差す”瞬間があるのも事実。とはいえ、経営陣、中でも会長・社長の醜聞は、一般従業員のそれと比較しても企業のレピュテーション(評判)を著しく低下させるリスクが高い。どうすれば、経営者のモラルハザードを防ぎ、一方でスキャンダルに塗れた経営者から企業を守ることができるのか――。厚生労働省の雇用均等・児童家庭局長から民間に転身、資生堂では副社長を歴任し、現在は住友商事(2024年6月退任予定)、りそなホールディング、味の素で社外取締役を務める岩田喜美枝氏に、この時代、経営者に求められるモラルと独立社外取締役が果たすべき役割について聞いた。

CEOの“基盤”となる人間性とインテグリティの見極め方

――これまで多くの企業で社外取締役を務めてこられた岩田さんですが、経営者に求められるモラルや人間性について、社外取締役にはどういった役割があるのでしょうか。

経営者のモラルの問題において社外取締役には4つの果たすべき役割・責任があると思います。

まず1つ目には、望ましいCEO(最高経営責任者)像やCEOに求められる条件を取締役会(機関設計によっては指名委員会)がどのように定めるかという問題です。もちろんCEOの要件は企業や業種によって異なるでしょうが、人間性やインテグリティ(誠実性や倫理観)は業界を超えた人材要件の“基盤”となる項目だと考えています。経営的な能力が非常に優れていても、人間性や倫理観に疑問符が付く人物は指名すべきでありません。

独立社外取締役は、その企業にとっての「望ましいCEO像」に人間性やインテグリティの要素がしっかりと組み込まれているかを確認する必要があります。仮にそういったものが定まっていないのであれば、取締役会や指名委員会で「CEOサクセッション(継承)プランの一環としてCEO要件を議論すべき」と議題に載せることも、社外取締役の重要な役割です。

2つ目は、CEO候補の人間性や倫理面に問題がないかを実際にチェックすることです。

私は社外取締役に就いている企業では、次期CEOのロングリスト(候補者名簿)は「なるべく早い時期に出してください」とCEOにお願いしています。可能な会社とそうでない会社とありますが、CEOの選任プロセスでは多くの候補者の中から徐々に人数を絞っていき、最後の1人を決定するのが標準的なやり方です。

指名までに時間的な余裕があれば、非常勤の社外取締役であっても、候補者本人と直接面談したり、関係者にヒアリングしたりと、さまざまな場面で接点を持つことができます。リストに載っている候補者を常に念頭に置き、発言内容や人柄などを注意深く観察したうえで、毎年行うリストの見直しの参考にします。そうした選考過程の中で、1番目に申し上げた「望ましいCEO像」に照らし合わせながら、多角的な観点から適任者であるかの可否を判断するのです。

以上2点は経営トップを指名するまでですが、3つ目は指名後のフェーズとなります。仮に指名した後に、そのCEOが異性問題といったプライベートに起因する倫理面の問題を引き起こしたり、あるいは発覚したりした際の、社外取締役および取締役会の対応です。

一口に「倫理面の問題」と言っても、内容や状況、程度によって対応は大きく違ってきます。比較的軽いと思われる問題でしたら、取締役会として注意するというのが一般的な方法でしょう。取締役の任期は基本的に1年ですから、次の定時株主総会で再任しないという選択肢もあります。本人に自発的に辞任を促す方法もあるでしょう。一方で、取締役は株主総会以外では解任ができませんから、本当に深刻なケースで上記の方法によれない場合は、臨時株主総会を開いて、任期終了を待たずに解任することもあり得ます。

――経営トップのプライベートの問題への対応は、どのような基準をつくることができるでしょうか。

各社、一般従業員に対する懲戒基準を持っていると思いますが、「私的な生活」の部分で具体的な基準を設けている企業はあまりないと思います。私的な生活の問題はあまりに多岐にわたるからです。不倫といった不貞問題もあれば、多額の借金をしていた、交通事故を起こした、窃盗事件を起こした……などなど、しかも状況や程度がいろいろで、さらに、それが法律違反なのか倫理違反なのかという問題もあります。最終的には、過去の事例と照らし合わせる、あるいは弁護士に相談しながら処分を決めるのが実情でしょう。

取締役はそもそも会社の懲戒の対象になりません。経営者が「私的な生活」で問題を起こした場合の対応について、具体的な基準を設けているという事例は聞いたことがありません。しかしながら、言えることは、職位が上がれば上がるほど、一般従業員と同じ問題を起こしても処分は厳しくなるものです。それは「職位が高い人物ほど倫理的に正しくあるべきだ」という社会的な期待があるからです。

特に不貞の問題はジャッジが非常に難しいと思います。不倫はよくないことだという社会の通念はありますが、どのくらい厳しく見るかについては人によってさまざまです。「不倫はすべて悪だ」と考える人が一方にあり、仕事をしっかりしており業績を上げているのであれば私生活上の問題は問わないと考える人も他方にいる、その中間にはさまざまな考え方があり、価値観に幅があるからです。

さらに相手が本当に納得して付き合っているのか、それとも、社長の“権力”によって必ずしも同意していないけど、やむなくなのか。相手の立場についても、職場の人なのか、取引先の関係者なのか、まったく外部の人なのか……これらによっても処罰感情はずいぶん違ってくると思います。

経営トップは「企業の価値観」を映す鏡である 社…
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