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【損保ジャパン元役員「不祥事防止」の教訓学#3】自社の不祥事を後世に語り継ぐ“困難と重要性”

#2から続く)本特集シリーズのテーマである「不祥事の伝承」の核心にあるのは、自社で起きた不祥事の詳細を知らない世代の後輩たちに、いかに自社の“負の歴史”を伝えていくかという課題と言えるでしょう。不祥事の教訓を学ぶという一番大事な論点はそこにあると思います。

必ずしも、当事者や当該セクションといった固有名詞を出す必要などありません。しかし、何が原因で何が起こり、それが自社と社会にどのようなインパクトを与えたかは、しっかりと伝える必要があります。事例研究は責任追及が目的ではありません。不祥事を伝承するということを受け入れる“風土”を作ることこそ、必要なのです。社内に「あんな昔の事件を掘り起こして、とやかく言ってひどいじゃないか」などと言いたい気持ちがあるのはわからないでもないですが、そこを乗り越えないといけないのです。

雪印「不祥事伝承」45年後の蹉跌と再びの誓い

たとえば、雪印メグミルクのホームページを見てください。過去の食中毒事件のことを詳しく記述して広く公開しています。その姿勢を私は高く評価しています。雪印は過去に2度大きな事故を起こしていますが、その時その時の痛い経験をもとに安全安心に係る不祥事を起こさないように努力を続けています。

同社のホームページではこれまでリスク管理上、どんなことに取り組んできたかを詳しく公表しています。そして、雪印牛乳食中毒事件(2000年)と雪印食品牛肉偽装事件(2001年)、そして今から68年前の雪印八雲工場食中毒事件(1955年)の3つの事件のことを、痛い教訓としてきちんと書いています。ホームページですから、簡潔に記述ではありますが、おそらく社内的にはもっと深い考察がなされているはずです。

われわれが雪印から学ぶことは、不祥事の伝承の難しさということです。

1955年の八雲工場食中毒は、脱脂粉乳を作る過程での停電が原因でした。原料乳を冷却しながら乳製品を製造する工程で、停電によって冷却装置が動かなくなり、温度が上昇。結果、黄色ブドウ球菌が繁殖し始め、そこから出た毒素エンテロトキシンによって食中毒が引き起こされました。東京都内の小学校の給食で出された脱脂粉乳が原因で約1600人の児童が食中毒になったという事件です。

ところが、それから45年経って2000年に関西地方で起きた食中毒事故の原因は、1955年のときと同じように停電で温度が上がった原料乳を使って乳製品を作ったためだったのです。この時は、対応策が後手後手に回ったこともあり、1万3000名を超える被害者を出してしまいました。

製造プロセス中に停電が起きた場合、原料乳の品質が不確かなものになるという1955年の苦い教訓が忘れられていたのです。もし、あのとき原料乳を破棄していれば、900万円程度の損害で済んだそうですが、雪印は最終的に推定1000億円以上の損失を被ったうえ、ブランドの崩壊を招いてしまいました。雪印では2000年事故の後、温度管理のできなかった原料乳又は生乳は「捨てる」ことを社内ルールとしました。

1955年の食中毒のときの雪印の対応は素晴らしいものでした。当時の佐藤貢社長(雪印乳業初代社長)が陣頭指揮を取って、現在でも十分通用するような被害者対策と事案報告をきちんと行っています。

事件後、佐藤社長は「全社員に告ぐ」という有名なメッセージを発信していますが、今読み返しても私たちの心に響く内容です。

〈信用を獲得するには長い年月を要し、これを失墜するのは一瞬である。そして信用は金銭では買うことはできない。〉

〈如何なる近代設備も、優秀なる技術と細心の注意なくしては、死物同然であって一文の価値をも現わさないばかりでなく、却って不幸を招く大なる負担となるのである。機械はこれを使う人によって、良い品を生産し、あるいは不良品を生産する。いかに近代的な優秀な機械と雖も、これを使うのは結局人間であって、人間が機械に使われるものではない。〉

〈全社員がこの問題を……各々の尊い反省の資料としてこれを受入れ、全員が一致団結し、真に謙虚な気持をもって愈々技を錬り職務に精励し、誠意と奉仕の精神とをもって、生産者と顧客に接する努力を続けるならば、必ずや従来の信用を取戻すことが出来るばかりでなく、ますます将来発展への契機となることを信じて疑わない〉

しかしながら、このような立派な「全社員に告ぐ」も、2000年の食中毒事故のときには、結果として風化していたと言わざるを得ないのです。

「のど元過ぎれば熱さ忘れる」とはよく言われる格言ですが、衝撃的な事件でも時とともに風化し、その教訓も忘れられていくということは、企業不祥事において最も注意すべきことでしょう。時代が変わり、人が変わり、組織も変わるが、人間が陥りやすい落とし穴は常に口を開けて待っているのですから、それへの注意を怠らない、事件を風化させないという継続的な努力が必要さということを雪印の事件は示していると思います。

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