フジテック#2 社外取の責任問うた「臨時総会」と「内山解任」オアシスの“狡猾”【株主総会2023】
2023年6月開催の株主総会で注目を集めたエレベーター大手、フジテックの「アクティビスト(物言う株主)vs.追放創業家3代目」の総会バトル――。会社を追われた元会長が異例の「株主提案」を繰り出したものの、その提案が株主たちに受け入れられることはなかった。数カ月前まで“絶対権力者”として社内で君臨した創業家出身トップは、アクティビストの猛攻の前に、いかに権力を失い、会社を追い出され、そして6月総会の“天王山”で敗れ去ったのか。#1に続く第2弾では、2023年2月の臨時株主総会を軸に両者の対決を検証する。
2022年6月定時株主総会直前に「内山“非取締役”会長」という愚策
(#1から続く)フジテック創業家社長の内山高一は、2022年6月23日の定時株主総会の直前に取締役候補を下り、自身の選任議案を撤回した。総会直後に開かれた取締役会で“非取締役”の会長に就任し経営中枢にとどまったが、これは身を滅ぼす悪手だった。
突然の“敵前逃亡”に、内山の再任に反対したアクティビスト・ファンドのオアシス・マネジメントは「卑怯な手口」と罵ると、辛辣にフジテックの取締役会を批判する声明を出した。
「フジテックの株主は、定時株主総会で意見を主張し、経営陣の責任を追及する権利を取締役会により侵害されました」
「この取締役会は極度の隠蔽体質で、誠実さの欠片もないことが、これまでの決議・行動を踏まえて明らかになりました。取締役会は株主を裏切りました」
極度の隠蔽体質、誠実さの欠片もない……、オアシスの放つグロテスクなまでの批判に内山やフジテックの役員たちのプライドはひどく傷つけられたことだろう。しかし、アクティビストから見れば、フジテックの取締役会こそが伏魔殿だった。英投資ファンドのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)も、「黙認できない」とオアシスに同調した。彼らは「次のステップを積極的に検討している」(AVI)として、臨時株主総会の招集を検討し始める。
内山は、自らオアシスに反創業家票をまとめ上げるビッグチャンスを献上してしまったのだった。
内山が窮地に陥るほどに株価が上昇していく……
創業家は、アクティビストの恐ろしさに震え上がったことだろう。オアシスの攻勢が強まるほど、フジテックの株価は上昇するからだ。
前回も触れたとおり、内山が率いたフジテックの過去10年間の業績は右肩上がりだった。2013年3月期に売上高が約1175億円、純利益が約55億円だったが、2022年3月期にはそれぞれ約1870億円、約108億円まで伸ばしていた。特にオアシスに難癖をつけられた2022年3月期は、コロナ禍の混乱から早々に立ち直り、収益ともに過去最高を記録していた。
一方で、株価はパッとしなかった。13年以降、1000〜2000円の間を横ばいに推移し、PBR(株価純資産倍率)も1倍台だった。ところが、オアシスが“反創業家”キャンペーンを始めた2022年以降、PBRは2倍以上に跳ね上がる。
オアシスが内山再任に反対を表明した2022年5月20日の株価(終値)は2514円だった。それが、株主総会での敵前逃亡を経て、オアシスの創業家追及キャンペーンが継続されることがわかった2022年6月29日には、3005円(同前)に達した。なお、8月1日の終値は3667円だった。
株主の期待は、オアシスに寄せられた。株価が上がるほどに、皮肉にもフジテックを手塩にかけて育て上げた創業家は追い詰められていくのだった。
「内山高一による権力濫用からフジテックを守りましょう」
内山が会長に納まった半年後の2022年12月、オアシスは「プロテクト・フジテック」の第2弾キャンペーンサイトを公開し決戦に打って出る。持ち株比率は約17%まで増えていた。
2023年2月臨時株主総会の泥仕合
「現在の社外取締役は、(中略)内山家と連携する立場を取っています。そして、内山家が不適切な関連当事者取引を行ない、当社の持続的成長に向けたリーダーシップを内山氏が発揮してこなかった責任の追及を怠っており、株主、従業員、顧客を含むすべての利害関係者の利益よりも内山家の利益を優先しています」
2022年12月5日、フジテックの社外取締役6名の解任と新たにオアシスが選定した7名(後に6名に変更)の社外取締役の選任を株主提案し、臨時株主総会の招集を請求した。
ターゲットは、内山家との関連当事者取引や内山の“非取締役会長”就任を容認した6人の社外取締役だった。株主の負託を受けているはずの社外取締役が、株主全体の意向を軽視し、創業家に従属的に従っている――。オアシスの戦略は、創業家が支配するフジテックのコーポレートガバナンス問題を浮き彫りにすることだった。
黙っているわけにはいかなくなったフジテックは、抗戦を試みる。
翌2023年1月20日、フジテック側も新たに社外取締役2人の選任を提案し、オアシスの株主提案に対して反対を表明した。さらに、オアシスが内山家との関連当事者取引をスキャンダラスに追及したのと同様に、オアシスの最高投資責任者のセス・フィッシャーの個人攻撃に踏み切った。
日本経済新聞の報道(2011年9月15日付)を根拠に、セス・フィッシャーが2011年に日本航空株式に係わる相場操縦疑惑によって、証券取引等監視委員会と香港証券先物委員会の協力のもとで処分を受けていたことを指摘、また、株主提案の社外候補の一人が以前勤めていた職場で労働・報酬問題で訴訟沙汰になっていたことも暴き立てた。
論戦は、泥仕合の様相を呈していく。
さらに、フジテックはオアシスが指摘するコーポレートガバナンスの軽視について、こう反論してみせた。
「当社は国内最大級のコーポレート・ガバナンス(原文ママ)に関する網羅的なサーベイである、三井住友信託銀行の「ガバナンスサーベイ」のすべての項目において、同規模/同属性の上場企業を上回るスコアを獲得しております」
しかし、フジテックの主張に対するオアシスの反論は、想像を絶するものだった。
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