2024年AML法改正案の概要
2024年10月、メキシコ上院において、AML法の改正案が提出されました。本改正案は、FATFが2018年に公表した、対メキシコ相互審査結果において指摘された勧告への対応を目的としています。加えて、2023年に実施された最新の相互審査を踏まえ、2025年に予定されているFATFのフォローアップ審査に備え、メキシコのAML体制の強化を図るものです。
本改正案は、AML/CFT措置を、実効的に機能させる体制の整備に主眼を置いています。これにより、メキシコが国際基準を遵守しつつ、違法な金融取引を検出・防止・阻止するための、より強力な対策の構築に取り組む姿勢を明確にしています。
また、本改正案では、実質的支配者に関する情報の透明性確保を重要な課題として掲げています。これは、金融の安定性を支える戦略的優先事項であると同時に、国際的な基準への適合に不可欠な要素とされており、メキシコの金融制度の健全性を内外に再確認させることを目的としています。
暗号資産関連事業者への影響
本改正案は、暗号資産に係る取引について、規制の対象となる義務および活動の範囲を拡大するものです。特に、現行のAML法には明記されていないものの、メキシコの顧客と取引を行う海外拠点のプラットフォームも、今回新たに義務の対象として明確化されました。
さらに、取引報告に関する基準の見直しも本改正案に含まれています。現行制度では、取引額が645 UMA(2024年基準で約3800米ドル)以上の場合に、報告義務が生じる仕組みとなっています。
提案されている改正では、以下の2つの新たな報告基準が導入されます:
- 取引額が210 UMA(2024年基準で約1,250米ドル)以上である場合
- 当該取引を実施するために利用されたサービスに対して4 UMA以上(同約20米ドル)の手数料が課される場合
改正案における注目点のひとつは、暗号資産に係る取引に関し、送金人、受取人、ならびに該当する場合には実質的支配者に関する正確な情報を取得・保持し、必要に応じてメキシコ当局に提供する義務が、一般規則に従って課されることです。
そして、実質的支配者の識別に加え、その確認および登録の義務が規定されています。
さらに、本改正案では、すべての特定事業者に対し、リスク区分に応じて、年次の独立監査の実施が義務付けられます。具体的には、高リスクに分類される事業体には外部の独立監査の実施、低リスクおよび中リスクに分類される事業体には、内部または外部の独立監査のいずれかの実施が義務付けられます。
この改正案は、メキシコを「事後的・受動的なAML管轄」から「事前的・能動的な監督体制」へと転換させることを目的としています。FATFの「有効性フレームワーク」(訳注:法制度の整備状況だけでなく、制度の運用実績や成果を重視する評価手法)を国内法に取り込むことで、技術的適合性の向上にとどまらず、金融犯罪の検出・抑止・遮断能力の強化を図り、メキシコを「規制の厳格さ」と「イノベーションの推進」が両立する国として国際的に位置づけることを目指しています。この両面的な方針により、非準拠の事業者を排除しつつ、海外からの投資を呼び込む健全なエコシステムの構築が可能となるでしょう。