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【メキシコ弁護士特別寄稿】メキシコ「マネロン防止法改正案」と暗号資産規制の影響《前編》

ミゲル・ガジャルド・ゲラ(Miguel Gallardo Guerra):弁護士(メキシコ在住)
ハビエル・ペレス・モレノ(Javier Pérez Moreno):弁護士(メキシコ在住)

エグゼクティブ・サマリー

メキシコでは現在、マネーロンダリング防止(以下AML)およびテロ資金供与対策(以下CFT)に関する法制度の大幅な改革が進められています。これは、国際的な義務、ならびに金融活動作業部会(以下FATF)による2023年の相互審査を踏まえたものであり、メキシコではAML法の重要な法改正に向けた準備が進められています。本改正案は、暗号資産を含む不正資金の流通を抑制するため、メキシコにおける法的および運用上の指針を抜本的に強化することを目的としています。

この2024年改正案は、AMLおよびCFT(以下AML/CFT)に関する国際基準への整合を図るとともに、メキシコの法規制上の対応力を強化するものです。具体的には、規制の適用範囲の拡大、メキシコ国内の利用者にサービスを提供する外国事業者に課される義務の明確化、取引報告義務の適用基準額の引き下げ、実質的支配者の識別要件の厳格化、監査・情報保存義務の強化など、多岐にわたる制度が改正されています。これにより、より能動的かつリスクベースの監督モデルへの転換が進められています。

本稿では、メキシコにおける暗号資産サービス提供者に適用される法的・規制上の変更点を概観するとともに、同国市場で既に事業を展開している、あるいは展開を検討している外国企業にとっての戦略的留意点を整理し、コンプライアンス要件を明確化します。さらに、持続可能かつ合法的な成長を実現するために、絶えず変化する規制体制への適応の重要性を提示します。

メキシコのAML規制の発展と法的根拠

メキシコにおけるAML/CFTの規制枠組みは、近年、著しい発展を遂げています。その法的基盤となっているのが、「違法収益に関連する取引の防止および識別に関する連邦法」(以下AML法)であり、同法は、メキシコが国際的義務を履行し、FATFの40の勧告に基づく国際基準と国内法制との整合を図るうえで、極めて重要な一歩と位置づけられています。

もっとも、メキシコのAML関連法制はこのAML法にとどまらず、マネーロンダリング罪を規定する「連邦刑法典」第400条Bis(第400条に追加された条文)や、銀行、証券会社、フィンテック事業者などを対象とする金融関連法令など、広範な法制度と機関によって支えられています。これらの法令により、該当する事業体にはAML措置の実施が義務付けられています。

さらに、AML法において規制対象とされる「特定事業者」とは、マネーロンダリングやテロ資金供与に悪用されるリスクが高いとされる事業活動を行う事業体を指します。具体的には、その活動には公証業務、非金融事業者によるクレジットカードの発行やリースの提供、非金融事業者による暗号資産の取引などが該当します。