フジテック#6 創業家支配と「株主ガバナンス」の相克【株主総会2023】
実現しなかった「非上場化」という選択
(#5から続く)「この(株主)提案は、創業家がファンドから経営権を取り戻すものではありません」
フジテック元社長の内山高一は、今年6月の外国人特派員協会での会見でこう話した。
アクティビストファンドのオアシス・マネジメントの攻勢でフジテックを追放された創業家3代目の内山は、反転攻勢に打って出て8人の取締役候補を送り出す株主提案を行った。すでにオアシスによって送り込まれた、あるいは迎合した5名の取締役を凌駕する多数派を形成しようとする内山の株主提案の候補者のなかに内山自身の名前はない。
「返り咲きを期す創業家」という印象が広まっては、株主ガバナンスを否定することになる。そんな印象を払拭しようと注意を払う内山だが、オアシスから「4代目社長候補」と名指しされた彼の息子がフジテックの常務執行役員にとどまっている現状では、内山の狙いは誰の目にも明らかだった。
内山が追放される大きな要因となったのは、2022年6月の定時株主総会での敵前逃亡とその直後の取締役会での非取締役の会長就任だった。複数の関係者によれば、この総会後に内山は「非上場化を模索していた」という。
断片的に寄せられた関係者の話をまとめると、経緯は次のようなものだったという。
「内山が取締役候補を降りて、‟非取締役会長”に就いた時点で、オアシスの反発は目に見えており、彼らが臨時株主総会を提案することを、フジテックも見越していた」
そこで検討されたのが非上場化だった。
「それが、内山さんら創業家がフジテックに残るための最善の方法だと考えられた。その手法はプライベートエクイティファンド(PE)と手を組んでファンドを作り、オアシスを含む全株式に対してTOB(株式公開買い付け)を仕掛けるというもの。しかし、オアシスが創業家批判を展開すればするほど、フジテックの株価は上昇していった」
高値売り抜けを狙う「アクティビストの作法」
2022年の定時株主総会に向けてオアシスが「内山社長再任反対」を表明した際は2514円だったフジテックの株価(5月20日終値)は、総会後に3005円に達し(6月29日終値)、時価総額は2370億円を超えていた。TOBを実施するには、株主資本の1.8倍、営業キャッシュフローの24倍(ともに2022年3月期決算を参照)の金額にプレミアムを付けて株式を買い集める必要があるほか、プロセスも複雑だ。
ましてや、オアシスは交渉巧者だ。有利な条件を引き出すために買取価格を引き上げるさや取り、「Bumpitrage」(バンプトラージ)と呼ばれる手法を好んで使う。バンプトラージとは、主にアクティビストファンドなどが買取側の提示するM&A価格が低いと主張し、その根拠である企業価値評価(バリュエーション)の改善を要求するキャンペーンのこと。買取側は、バリュエーションのアプローチ、その前提や数値の設定が合理的であることを説明できるようにしておくことが対策上、必要となる。
オアシスが、10%強の株式を取得した片倉工業がMBO(経営陣買収)による非上場化に踏みきった際、オアシスは所有する株式を、光通信の関係者が所有する鹿児島東インド会社に片倉工業の公募価格よりも高値で売り抜けた。このため、片倉工業のMBOは不成立に終わった。
また、2021年、三井不動産による東京ドームのTOBにもオアシスは絡んでいた。まず、オアシスは自らが全株を買いとる「再建案」を示して東京ドームの経営陣を揺さぶり、三井不動産がTOBを表明してからも、オアシスは東京ドームの社長をはじめ3人の取締役の解任を求めて臨時株主総会を請求して交渉を揺さぶった。この提案は否決されたが最終的に一株1200円のTOB価格は1300円まで吊り上がった。
内山が非上場化を目指すうえで最大の障壁となるは、やはりオアシスだった。内山は、決断できなかった。
非上場化が一時でも検討されたことは、皮肉にもオアシスの批判が理にかなっていたことを物語る。上場企業として数多の株主の出資を集めながら、内山とフジテックの取締役たちの意識に深く染みついていたのは、「永続的な創業家支配」という前提だ。これが、オアシスの批判する株主ガバナンスの矛盾を反証できない最大の理由だった。
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