フジテック#5 オアシスの揺さぶりに墓穴を掘った創業家【株主総会2023】
(#4から続く)フジテック創業家の3代目社長、内山高一に対し、株主資本主義はあまりに冷酷だった。
アクティビストファンドのオアシス・マネジメントの攻勢に屈してフジテックを追放された内山は、創業家株をかき集めて株主提案に踏み切った。オアシスを“ハゲタカ”よりもひどい「ヤマビル(山蛭)ファンド」(社外取締役候補だった小手川大助の発言)と批判して、取締役の入れ替えを期した内山だが、2023年6月の定時株主総会ではあっけなく敗れ去る。創業家以外の株主からほとんど支持を得られないという大惨敗だった。
オアシスは当初から、わずか10%程度の持株比率しかない創業家がフジテックを私物化し、支配する構造を批判してきたが、内山は最後まで筋の通る反論ができなかった。 なかでも、内山の“ガバナンス音痴”を象徴的に示したのが、不正調査の透明性を高める第三者委員会への意識の低さだった。
「第三者委員会」の設置を拒絶した内山の悪手
オアシスは、2022年5月に‟内山おろし”のキャンペーンを始めた。批判の中身は、内山家とフジテックの関連当事者取引。内山家の関連会社とフジテックとの間で取引されていた6件の不動産の賃料支払いや売買契約を詳細に調べ上げ、さらには創業家と密接な関係にある税務アドバイザーとの取引やフジテック社員の私的利用の疑いを暴き立てた。
特にトップ営業のために設けられていた貴賓施設の東京・元麻布の高級マンションに内山とその家族が居住していたことや、兵庫・西宮市の内山邸の庭園を掃除していたフジテックのユニフォームを着た男性の写真を撮影し、社長内山(当時)の利益相反を厳しく批判(内山家側は疑惑を全面的に否定)。同年6月の株主総会で内山の取締役選任に反対した。
探偵まで用いた調査の手法には批判があるものの、オアシスが内山おろしに踏み切った背景には、キャンペーン開始の1年10カ月前にあたる2020年7月15日にオアシスが送付した一通の書簡がある。当時のフジテック社長の内山と取締役会に宛てられた書簡は次のような内容だった。
〈独立社外取締役には真に独立した‟第三者委員会”を設置し、内山様の同族会社と貴社の関連取引の詳細を調査し、他の株主より内山様の同族会社との利益を優先した取引がないか確認することを求めます〉(‟カッコ”の強調は筆者)
社長の同族企業との取引は、利益相反の疑いもあるため、オアシスはこの時点でフジテックから完全に独立した委員がその実態を調査する第三者委員会の設置を求めていた。ところが、フジテックはこの要請を受け入れなかったが、これが命取りとなる。
2022年3月、オアシスは再び関連当事者取引の調査を求める書簡をフジテックに送付した。ここにきてフジテックの取締役会は、関連当事者取引への対応を無視できなくなる。6月に控えた定時株主総会でオアシスの株主提案の動きが鮮明となってきたからだ。オアシスの要請を受けて、社外取締役の杉田伸樹と山添茂(ともに当時)は、西村あさひ法律事務所の弁護士に調査を依頼。4月1日より調査が始まった。
しかし、フジテックがこの調査を軽視していたことは誰の目にも明らかだった。5月にオアシスの反内山キャンペーンが始まると、5月20日にフジテックは関連当事者取引について拙速にも次のリリースを発表する。
〈調査を行ったうえで、(中略)いずれも所定の法令・手続等にしたがってされた適法かつ適切な取引〉
〈当該主張は全くあたらない又は事実誤認に基づく主張であると認識〉
弁護士による調査結果を待たずに出されたリリースにオアシスが反発したのは、言うまでもない。調査結果は2022年5月30日に公表され、フジテック取締役会は5月29日に臨時会を開き、〈法的にも、企業統治上も問題ないという結論〉に至ったと表明してみせた。
潔白を訴える内山と取締役会は、その行動が節操を欠いていることに気づいていたのだろうか。さらに弁護士の調査もオアシスにとって格好の攻撃対象だった。
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