フジテレビ10時間会見を「コーポレートガバナンス」視点で論点整理する

週刊誌報道を受け、今週2025年1月27日月曜日に開かれたフジテレビの記者会見は10時間を超えた。だが、内部統制とコンプライアンスの視点にフォーカスすると、コーポレートガバナンスの諸問題が浮かび上がる。
発端は、元タレントの中居正広氏(1月23日芸能界引退発表)が女性とトラブルを起こし、フジテレビ社員が関与していたとの「週刊文春」報道だった。フジは社員の関与を否定したが、1月17日、テレビカメラのない記者会見を開いたことで社会的な批判を浴び、CMスポンサーが大量離脱した。
フジは10日後の27日、「時間無制限」「参加者制限なし」で2回目の会見を開き、フジ・メディア・ホールディングス(フジHD )とフジテレビの嘉納修治代表取締役会長、フジテレビの港浩一代表取締役社長と遠藤龍之介副会長、そして金光修フジHD代表取締役社長が出席。冒頭、嘉納会長と港社長が同日付で辞任し、28日付でフジテレビ代表取締役社長に就任する清水賢治取締役が加わった(肩書は会見当時)。
前代未聞の10時間ロングラン記者会見をコーポレートガバナンス、リスクマネジメント等の視点から改めて論点整理する(なお、各人の発言については、可読性の観点から若干の調整を入れている場合がある)。
内部統制違反
27日16時7分ごろ 港社長
誰にも知らせずに仕事に復帰したいという女性の意思を最大限尊重。本人のために絶対に情報を漏洩させてはいけないそういう強い思いのもと限られたメンバーで情報を管理しながら女性の体調の復帰を待っていました。
今回の件でフジが問われた最大の問題のひとつが「社内調査」の遅れだ。港社長は会見最後まで、被害女性の意思を尊重した故に社内で情報を制限したと釈明を繰り返したが、内部統制の観点から見ると、明白な違反と言わざるを得ない。
というのも、フジテレビの親会社であるフジHDは有価証券報告書で内部統制について明記し、問題を把握したグループ会社の取締役と使用人が監査等委員会やコンプライアンス部門への報告を求めている。その端緒は「社会通念に反する」問題も含まれ、今回の事案が対象となるのは明らかだ。
しかし、港社長は“被害女性の意思”を持ち出し、自ら社の内部統制に制約を加えた。内部統制に対する理解不足は明らかで、企業の規範を情緒的に歪めたと言えよう。
港社長が事案を把握したのは23年8月。この時、すでに発生から2カ月が経過していた。会社としての把握は同年7月、被害女性の様子に気付いた社員の問いかけだった。情報を得た当該社員もコンプライアンス部門に報告せず、社内の規範意識の低さを示す。
ガバナンス不全
16時8分ごろ 港社長
社内での必要な報告や連携が適切に行われなかった。中居氏に対して適切な検証を行わずに番組出演を継続した。私自身が人権への認識が不足していたことで会社全体のガバナンスを十分に機能させることができなかった。
会見早々に認めたが、気付くのが遅かった。
第三者委員会の正当性疑義
17時ごろ 嘉納会長
事務方からの案が出たその後、(弁護士で第三者委委員長の竹内朗)先生にお会いした時、「第三者委員会は取締役会の決議を受けて、そこからスタートできる。まだ決まってないんだから、言わないでください」と言われた。
17時4分ごろ 金光フジHD社長
法律の解釈、今、正確に分かりませんがそれは 必ずしもそうでないという場合もある。
これらの発言は、言わないでいいことを自ら口にし、第三者委の正当性に疑義を招くものだったと言えよう。
広告主がフジへのCM出稿を引き上げた大きな理由のひとつは、中居氏を起用し続けたことにある。その点を考えると、今回の会見でフジが求められていたのは、中居氏を“かばった”わけではないという事実の提示だったのは明らか。
あいまいな説明をしたところで、記者がこの点について再質問するのは容易に想定できたはずだが、その対応を怠っていたことが分かる案件が次の質疑応答だ。
フジテレビの広報姿勢
27日16時28分ごろ 上野陽一・執行役員広報局長
報道後、中居氏に対しても複数回の聞き取りを行いました。
27日23時ごろ 港社長
(記者から中居氏へのヒアリング回数の実数を求める質問が出た事を受け)ちょっと調べますのでえっと時間をください。
28日2時20分ごろ 上野広報局長
(記者からヒアリング回数の再質問が出たことを受け)ちゃんと聞き取りをした日、それから、例えば何かのついでで話した日とか、いろいろケースがあるようで、複数回というふうに今申し上げております。事案が発覚してからのコンプライアンス担当を入れたヒアリングに関しては2回行ったということです。
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