第13回【JAL植木義晴×八田進二#3】CA出身「鳥取新社長」を一丸で支える使命
JALは「破綻前」に戻らないのか
八田 私自身、会社更生手続きが終結した2012年7月から8年間、JALの社外監査役を務めましたが、社外取締役との関係はどうですか。
植木 八田さんが監査役に就いた時から「JAL人格」でない社外役員の方々が持っている知識や経験、視点をフルに使わせてもらおうと思っていました。そのために就任をお願いしているのだから、それはもうとことん働いていただこう。そんな思いでしたね。(笑)
八田 他の会社の事例でよく聞くのは、お願いしている会社のほうも、受けた社外取締役・監査役のほうも「お客様」感覚で、形式的にお願いして、お願いされたから受けているだけというケースです。植木さんは社外取にどういう役割を期待されていましたか。
植木 気づいたことは何でも言ってもらいたい。当然、航空業界のことを知り尽くしているわけではないから、社外役員の指摘が間違っていることもある。でも、違う視点から指摘されることで、初めて気づくこともあります。
僕ら機長が副操縦士に言うのは、「気づいたこと、気になることは必ず口に出せ」。10回のうち9回はキャプテンに叱られるかもしれない。でも、10回に1回は、乗客と乗組員合わせて300人の命を救うことになる指摘かも知れない。だから臆せず、自分の意思はしっかり表明しなさいと言うんです。
八田 風通しの良いコミュニケーションが実践されていることも、内部統制が有効に機能している証拠であり、また、強固なガバナンスの構築に貢献しているということでしょうね、
植木 経営においてもそれは一緒だと思います。社内はもちろん、社外取締役の方にもそれを求めています。はっきり言ってもらったら、まっさらな心で受け止めて、社内の人間が違うと思ったら、その場で正直に言えばいい。
お客様扱いになると、その場では「なるほど、そうですね」と拝聴するばかりになり、相手も自然ときついことは言わなくなります。どの会社にもそういう傾向はあるでしょうが、間違っていたら「間違っている」と、その時に堂々と言うべきです。
八田 会長を退いてから、植木さんご自身が他の会社の社外取締役を引き受けるお考えは?
植木 良い話があれば、やろうと思っていますよ。というのは、社外取締役っていうのは会社間の“互助会”です。JALも元社長の方2人に社外取をお願いしていますが、自分の会社には来てもらっているのに、自分は「やりません」では通らない。
八田 経営者の知見を活かすという意味で社会貢献ですよ。ところで、JALは監査役会設置会社ですが、他の指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社もそうで、単にシステムがあるというだけでは機能しないですよね。
植木 魂を入れないとダメですね。仕組みはいくらでも変えられる。でも、仕組みだけでは社員の魂までは変えられない。それに、トップの魂が卑しければ、会社も卑しくなるんですよ。「数字を出すために」と実態からかけ離れた売り上げを出すことを「粉飾」と言いますが、これはよくできた表現で、やっているうちに“素顔”では外を歩けなくなります。
八田 この先、心配なのは「JALは元に戻ってしまうのではないか」という点です。破綻時の苦労を知らない社員が増えたり、経験していても忘れてしまったり。この点はどうですか。
植木 先にも述べましたが、稲盛さんが僕を指名した理由のひとつが、「会社を後戻りさせてはいけない」ということ。「後戻りを堰き止められるのは誰だ? 植木だ」と思ったから社長に指名したんです。「あいつはわがままで、オレにも逆らってきた奴だ」と。
僕らの世代は一度会社を潰してしまって、社員に本当に苦労をかけました。もちろん経営陣がより大きな責任を負ったことは間違いないけれど、社員にも問題がなかったわけではありません。だから長く会社に勤めてきた僕が役員になり、社長になって苦労したのは当たり前のことなんです。
この先、同じ苦労を二度と社員に味わわせてはいけない。だから今の会社の雰囲気や風土をきちんと次につないでいこうぜと。「今、君たちがやっていることは間違っていない。頑張っていこうぜ」――。そう言いたいですね。
(了)
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