日本内部監査協会・土屋一喜代表理事「ガバナンスの“縁の下の力持ち”が脱皮する年に」【新春インタビュー#8】
「Governance Q」新春インタビュー企画第8回は、日本内部監査協会代表理事で専務理事の土屋一喜氏。内部監査は、コーポレートガバナンスや内部統制を屋台骨として支え、強化することで、不正防止にもつながる。いまや企業だけでなく、公益法人などの団体も本格的な活用に動き出している。そんな組織の規律を支える「内部監査」は、2025年、どのような展開を見せるのか――。土屋氏が語る。
ガバナンスを支え、セーフハーバーとして機能する内部監査
昨年2024年は、企業や団体で不祥事が相次ぎました。
従業員による不正もあり、これまでのような管理では予兆の把握さえ難しい事例もしばしば見受けられました。企業にとって透明性と信頼性の確保はいまや不可欠で、内部統制システムや、外部を含めたより広い意味でのコーポレートガバナンスの強化がますます重要になっています。
これらのガバナンスや内部統制を支えるのが内部監査の役目で、それは不正・不祥事発生後の信頼回復にも大きく貢献するものです。
内部監査部門を担う方々は、組織の目標に沿って各部門の業務がルールを守り、効率的に行われているかを点検します。その過程で、内部統制やガバナンスの妥当性や有効性を評価します。仮に課題があれば、改善策を助言、勧告する存在です。
とはいえ、内部監査の在り様は会社によってさまざま。経営層の期待の度合いも一様ではないので、難しい。
だからこそ、経営者や経営陣に考えてほしいのは、内部監査の業務とは「経営者が自分の意志を伝え、それが現場で正しく実行されているかどうかを確認することだ」ということです。経営者には、“自分自身の業務”だと捉えてほしい。そうすれば、自ずと内部監査部門の人材やリソースが充実していきます。
金融庁の「コーポレートガバナンス・コード」(CGコード)でも21年6月の改定で、コンプライアンスの確保や、一定のリスクをとって経営に当たることの裏付けとして、取締役会が内部監査部門を活用することが盛り込まれました。また、内部監査部門が取締役会や監査役会に直接報告を行う仕組みを構築することも入りました。
世界的に問われているサステナビリティ(持続可能性)の開示や、その保証制度にも内部監査が役立ちます。会社が掲げる環境や人権といったサステナビリティの目標や戦略を各部門がどのように取り組み、実践しているのか。
内部監査がこれを確認し、経営層に助言します。現場に社会のルールを伝え、法令違反を問われることがないよう、分かりやすく提示する。その結果、各部門ではこれらを守って従えば大丈夫で、内部監査部門はいわゆる「セーフハーバー」(安全な港)としての機能を果たすというわけです。
会社がサステナビリティの目標を掲げながら、具体的な戦略とかKPI(目標の指標)を設定していない場合、もうその時点で「ウォッシュ」(虚偽やごまかし)と見なされる時代です。そのような中で、内部監査が組織を点検するのです。内部統制はいわば、“縁の下の力持ち”と言えるでしょう。
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