【ベーカー&マッケンジー 井上朗弁護士が徹底解説】トランプ政権は日本企業のガバナンスにどう襲い掛かるか
ドナルド・トランプ次期米政権の政策の輪郭が、見え始めてきた。「アメリカ・ファースト」(米国第一)を前面に押し出した保護主義的な政策を一気呵成に推進する公算が大きいが、日本企業のコーポレートガバナンスにとって、どのような影響があるのか。ベーカー&マッケンジー法律事務所のパートナー弁護士、井上朗氏に見通しを聞いた。井上氏は国際カルテル案件やCFIUS案件に長年携わるなど、国際派弁護士として知られ、米国当局をはじめ各国当局に知己も多い。11月5日の米大統領選投開票の際はワシントンに出張しており、“トランプ当確”を目の当たりにしてきた。
第2次トランプ政権下では、国家安全保障重視に基づく政策が行われる結果、重要セクターにおける合併・買収(M&A)分野で日本企業にも影響が及ぶ可能性があると、井上氏は予想。果たして、日本製鉄による鉄鋼大手USスチール買収計画はどうなるのか。そして、トランプ次期政権は、日本企業などにどんなコーポレートガバナンス体制の構築を迫ってくるのか――。井上弁護士の最新解説。
GAFAを“司法”で封じ込む?
──トランプ次期米政権で予想される企業不正への対応は。
トランプ氏を支持する保守系シンクタンクのヘリテージ財団が主導するグループが、「マンデート・フォー・リーダーシップ2025」と題する政策構想をすでに公表しています。その中でまず、米国民の雇用を絶対に守っていくと、そのために保護主義政策を取ると宣言しています。
もうひとつは、規制撤廃です。企業が事業を展開していく際に支障になるような規制を極力、撤廃していくと。米国民の雇用保護という観点からですが、今、米国ではものすごく治安が悪いんですね。不法移民が増えたのと、バイデン民主党政権が警察の人員を削減した結果、治安が非常に悪化している。
国民の雇用を守るという観点からの派生ですが、治安回復という狙いもあって、贈収賄なども含めて国内の刑事犯罪の摘発は強化されるのではないかと見られています。
バイデン政権は基本的に国際協調主義であると同時に、米国法を国外で適用する域外適用にも積極的でしたが、トランプ政権においては、そこは抑制的になり、米国法を対外的にどんどん適用していって、日本人を収監するといった執行は控えめになると言われています。
規制緩和の面では、反トラスト法(独占禁止法)のM&A規制ですね。M&Aで独占が生まれる前にブロックするための規制ですが、これは緩和方向になるのではないかと観測されています。
──バイデン政権が推進した巨大IT企業(ビッグテック)規制の行方は。
GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック=現メタ、アマゾン・ドット・コム)を代表とする“ビッグテック”が、トランプ支持派のネット言説について検閲をしていたのは間違いないという見方もあるので、トランプ政権になっても、「(保守派に対する)言論統制はけしからん」という意見を後押しする形で、ビッグテックに対する執行はより強化すると見られます。
ただ規制を強化したり、規制を増やしたりするのではなくて、今ある規制の枠内で裁判をやっていくということになるでしょう。
トランプ氏は「drain the swamp」(連邦政府官僚などの既得権益を一掃せよ)と言っています。官僚の首を大量に切って、日本円にして約1000兆円規模の国家予算から、約3割に相当する2兆ドル(約300兆円)を削減するとまで言っている。規制を簡素化するのと、裁判中心でビッグテックを責め立てるというのは、両立するわけです。
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