企業担当者を悩ます「リスク情報収集」の死角
「仕事とはいえ、パソコンに向かい合ってネット上で関係先のリスク情報をチェックするのは、身心ともに疲れ果ててしまう」――。あるメーカーで与信管理を担当する中堅社員の偽らざる本音である。
「情報を制する者は戦いを制する」と説いたのは古代中国の兵法家・孫氏だそうだが、ありとあらゆる情報がネット空間に氾濫する現代。間諜や斥候を繰り出して相手の動きを察知する肉弾的な情報収集術しかなかった2500年前とは異なり、現代の企業戦士は“生の情報”は言うに及ばず、場合によっては、情報収集のために日がな一日、パソコンあるいはスマートフォンのモニターに対面することを余儀なくされる。
しかも、誹謗中傷を目的としたフェイクニュースから、マスコミがいまだ掴みきれていないビッグニュースの先触れとなる情報まで、ネット上には玉石混交の情報が交錯している。そんな情報の洪水の中から、戦いを制する“情報の欠片”を掬い上げるのは容易でないどころか、先の与信管理担当者の言葉の通り、心身ともに憔悴してしまう。
とはいえ、ウェブでのリスク情報の収集は避けて通れない。むしろ、リスク情報収集の一丁目一番地こそ、ネット空間なのである。それでは、徹底した情報収集と、情報収集の手間暇の省力化というジレンマはどうやって解消したらいいのか。
入手者の主観によって左右される「定性情報」
「情報には『定量情報』と『定性情報』の2種類がありますが、リスク情報についても同様で、損益計算書(P/L)や決算報告書といった定量情報を収集できれば、リスク判断は格段に容易くなります。しかし、上場企業ならともかく、非上場の関係先の場合、正確な財務諸表を入手するのは非常に困難です。それゆえ、リスク対策のためには、経営状況や営業戦略、技術情報をはじめとする定性情報をいかに集めるかがカギになります」
こう話すのは、「Governance Q」を運営するディークエストホールディングス(HD)の調査事業部、淺田信行氏だ。ディークエストHDは長年、コンプライアンスチェックなどを通して、企業および個人のリスク情報の調査を行ってきた。そして、この2024年4月には、これまでのノウハウを投入したリスク検索の新サービス「riskey」(リスキー)の提供を開始した。淺田氏が続ける。
「定性情報については定量情報に比べて情報収集がしやすい反面、情報を入手した担当者個人の主観が入りやすく、情報の質量ともにバラツキが出やすいといったデメリットがあるのも事実です。実際、私が相談を受けたあるメーカーA社のケースでは、営業担当者がいち早く取引先のネガティブ情報を入手していたにもかかわらず、その情報を有効に活用できていませんでした」
淺田氏によると、事の経緯は以下のようなものだったという。
A社の取引先B社が倒産、100万円ほどの売掛金が回収不能となった。B社からA社には順調に注文が入っていたにもかかわらずの突然の取引先倒産。A社にしてみれば、青天の霹靂だったが、あとで営業担当者に確認すると、意外な事実が判明する。というのも、そのA社の営業担当は、B社社員から「ウチの納品先C社が倒産して、ちょっと困っているんですよ……」という話を事前に聞かされていたのだ。しかも、それはB社倒産から3カ月前のこと。ところが、B社からの発注は従来通りだったため、A社担当者は「自分には関係ない」として、情報を共有していなかったのだ。
情報を上げなかった担当者を責めることは結果論でしかない。いたずらに取引先のネガティブ情報を騒ぎ立てることを躊躇うのも理解できる。特に営業担当者からしてみれば、顧客の経営状況は自分自身の成績に直結する話で、どうしても楽観視したいという心理が働きやすい。とはいえ、損失を出した会社からすれば、なぜ情報が共有できなかったのかが悔やまれるのも確かだ。逆に言えば、属人性の高い定性情報を社内で集約するのは、これほどまでに難しい。
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